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□一緒にごはん
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トントントンという包丁がまな板を叩く音。
コトコトと鍋の中身が煮える音。
パチパチと魚が焼ける音――。

夕餉の支度をする音で溢れる雲雀御殿の台所で、綱吉は真剣な顔で菜箸を握っていた。
右手に菜箸、左手に卵焼き専用の四角いフライパン。
焦げないように、且つ形が崩れないよう慎重に慎重に卵を焼いていく。
最後のひと巻きを終えて出来上がった卵焼きを、やっぱり慎重にまな板へと移して端っこを少しだけ切った。
するとずっと綱吉の様子を見ていた雲雀のばあやがその端っこを摘んで口の中に入れる。
今度はそんなばあやを綱吉が固唾を飲んで見つめた。

「うん。ダシも効いていて上品で良いお味。
焼き色も形も綺麗ですし、中はふんわりしっとり。
舌触りも滑らかでとても美味しいですわ。
よく出来ましたね、ツナちゃま」

「やった!」

文句無しの合格点を貰って綱吉はレパートリーが1つ増えた、と飛び上がって喜んで。


綱吉は今、雲雀の家に住み込んで花嫁修業の真っ最中。


雲雀と恋仲になって早4年。
綱吉は高校3年になっていた。
来年の春に高校を卒業したらイタリアに渡って、本格的にボンゴレボスとして動き出す予定。
その準備としてリボーンや獄寺がせっせと集めてくる手練の者がファミリーに加わって、綱吉の周りは中学の頃よりも遙かに騒がしい。

その状況を面白くないと思っているのが綱吉の恋人、雲雀恭弥だ。
綱吉は少年から青年になりかけている今でも相変わらず小さくて華奢で甘ったるいベビーフェイス。
なのに老若男女を問わず惹きつける色香を纏っていて、後に『魅惑のパスティヤージュ(砂糖菓子)』と呼ばれるようになる片鱗を十分見せていた。
綱吉が自分にベタ惚れなのは分かっているけれど、いつどこでどこの馬の骨とも知れない輩が綱吉に手を出すか分からない。

雲雀は大学進学と共に風紀財団を立ち上げて、勉学と仕事に追われて綱吉に目が行き届かない。
部下に見張らせているけれど、心配は心配だ。
財団を立ち上げたのは綱吉の為だったけれど、それに追われて綱吉との距離が離れてしまった。
このままじゃ不安で勉強にも仕事にも身が入らない。

だから。

牽制することにした。
これは僕の物だと。
これに手を出した者は容赦なく咬み殺す、と。
その虫除けのアイテムが―――綱吉の左手薬指にキラリと光るリング。
雲雀とペアのシンプルなデザインのプラチナリングは、ほんの1ヶ月ほど前に雲雀が綱吉に結婚指輪として贈った物だ。


避暑に出かけた軽井沢。
白樺の林の奥にあった教会で、星降る夜に2人きり。
雲雀が結婚してほしいと告げると綱吉は一瞬泣きそうな顔をした後、はにかみながら頷いた。
互いの指にリングを嵌めて、神の前で永遠の愛を誓ったのだ。

雲雀は綱吉と出逢う以前、自分がこんなロマンチックな状況でプロポーズをするなどと考えた事もなかった。
誰にも、何事にも縛られない孤高の浮雲。
愛だの恋だの鬱陶しいだけ。
一生結婚なんてしないだろうと思ったのに。

同性だし、未成年だし、互いに立場があるから本当に結婚するというわけにはいかない。
ただ指輪を交換しただけの結婚ごっこ。
それでも2人の心の結びつきはより深くなったし、リングの効果は抜群だった。
みんな綱吉の薬指に光るリングを見ては項垂れて去っていく。
あれは雲の守護者の所有物である証だと。

それに気をよくした雲雀はさらに「家で花嫁修業したら?」と綱吉を誘い、綱吉も最近雲雀にあまり会えなくて寂しかったから即座に頷いたのだ。
ばあやに料理や掃除、洗濯などの家事や、雲雀家のしきたりを教えてもらったり。
それからかいがいしく忙しい雲雀の身の回りの世話を焼いた。
2人はまさしく蜜月。
新婚気分を味わっていたのだった。
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