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□方向音痴
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綱吉と喧嘩した。


原因は些細な事だった。
休みの日、家に遊びに来ていた綱吉と食事をしていたら、焼き魚の食べ方が下手だったんだ。
その事をからかったらムッとした顔をしたから。
ご機嫌取りに骨を取ってあげようとしたのに。

「自分でできますっ!」

いつになく強気に突っぱねられて。
大人げないとは思いつつも、カチンときたから更に言わなくてもいい事を言ってしまう。

「不器用なんだから強がらなくてもいいのに。僕が骨取ってあげるよ」

そうしたらますます膨れて、一言も口をきかなくなった。
拗ねてる所も可愛い、なんて最初は余裕だったんだけど。
食事を終えてもずっとそんな調子で、僕が話しかけてもひたすら無視。
ちょっとイラッときたから、また余計な事を言ってしまう。

「いい加減にしなよ。本当に子供だね」

その言葉に綱吉は精一杯といった感じで僕を睨んで。

「ヒバリさんなんてキライ!」

冗談でも許せない言葉を叫んだ。

「僕だってそんな綱吉は嫌いだよ」

もちろん本気で言ってるわけじゃない。
この程度はよくある口喧嘩。じゃれ合いの延長だ。
だけどこの日は違った。

「・・・・オレ、もう帰ります」

そう言うと、さっさと帰り支度をして部屋を出て行ってしまった綱吉に僕は慌ててしまう。
いつもなら「ヒバリさん、キライなんて嘘です・・・・」ってへにゃりと眉を下げて。
大きな瞳をうるうるさせながら「キライにならないで・・・」って縋り付いてくるのに。
そんな様子が可愛くて、いつも苛めてしまうんだけど。
今日はなぜか綱吉は酷く傷ついたような顔をして出て行って。
急いで追いかけたけど、綱吉は「すみません・・・。ちょっと1人になりたいです・・・」と帰ってしまった。
残された僕は呆然とするばかり。

確かに僕がからかったのが悪かったのだろうけれど。
あの程度の軽口はいつもの事。
何がそんなに気に触ったんだろうか。
その日は一晩中悩みに悩んだけれど、結局分からなかった。

次の日、綱吉と学校の廊下ですれ違ったけれど目を逸らされてしまって何も言えなくなる。
とにかく謝ろうと思っていたのに。
さすがにムカムカしたから謝るのは止めた。
何をそんなに根に持っているのか分からないけれど、綱吉が降参するまで僕からも何も言ってあげない。
綱吉の事を言えないくらい子供っぽいとは思うけど。
本来僕は人に素直に謝れるような性分ではない。
綱吉だから特別なのに!
・・・と、やっぱり子供じみた発想で意地を張りだして。
もう3日綱吉に触れてない。


応接室の机の前で書類を広げていても、内容は全く頭に入ってこない。
こんなに長く喧嘩をしたのは初めてで、イライラ半分、不安半分だ。
いつも手伝ってくれている綱吉の代わりに、草壁がファイル整理をしている。
さっきから僕の様子を伺っているのは気付いていたけれど無視してたら、意を決したように立ち上がった。

「あの、委員長・・・・」

「何」

恐る恐るといった様子で話しかけてくる。
こういう時の僕に話しかけたらどうなるかなんて、幼い頃から一緒だった草壁ならば身に染みているはず。
それでも話しかけてきたという事は、よっぽどの事だろうか。

「ええ、あの、ですね・・・」

「はっきりしなよ」

なかなか話し始めない草壁に苛立って、トンファーを取り出した。

「あのっ、いつまでも沢田さんと喧嘩なさっていてもいいのだろうかと・・・・!」

そんな事草壁に言われるまでもないよ!

「何。君、咬み殺されたいの?」

ちょうどイライラも溜まってた所だし、ストレス発散といこうか。
僕がガタリと立ち上がると、草壁が怯えたように手をブンブン振って。

「ですが委員長!今日は沢田さんの誕生日では!?」

その草壁の言葉に僕はたっぷり30秒程固まってしまった。
え?誕生日?綱吉の?今日って何日?
やっと我に返って慌ててカレンダーを確認する。
しっかり丸までしてあるのに。
なんで忘れるんだ・・・・!
喧嘩の事で完全に日にちの感覚がなかった。

大きくタメ息を吐きながら椅子に座る。
とりあえず、意地とかプライドとか殴り捨てて謝りに行こう。
そして誕生日おめでとうを言わなければ。
本当はケーキとかプレゼントとかちゃんと用意しようと思っていたのに。
それは週末まで我慢してもらうとして、とにかく「おめでとう」だけは今日言いたい。


「まったく何やってんだ。おめーら」

突然背後から聞こえた声に振り返る。

「赤ん坊・・・」

綱吉の家庭教師を名乗る小さな赤ん坊が窓から入って来た。

「どうしたの。綱吉ならまだ教室にいるんじゃないの」

「今日はお前に用があんだよ。雲雀」

「僕に?」

また綱吉の成績が落ちてるとか説教を食らうのだろうか。
付き合いだした頃、綱吉の成績が酷く落ち込んで、僕までさんざん小言を聞かされたのだ。
今ではきっちり僕が勉強を見ているから、成績は落ちていないなずなんだけど。

「お前ツナに何したんだ?陰気なオーラ出しまくりやがって、俺の誕生日会が台無しだったじゃねーか」

ああ、そう言えば綱吉が赤ん坊とは誕生日が1日違いだとか言っていたっけ。
ていうか、綱吉そんなに落ち込んでるの?

「綱吉に謝らないと・・・・」

「まぁ、待て。雲雀」

再び立ち上がった僕を赤ん坊が止める。

「何さ。僕、急いでるんだけど」

「わけも分からず謝ったって何の解決にもなんねーぞ」

そう言うと赤ん坊は僕に銃口を突き付ける。

「・・・ちょっと。何のマネ?」

「どんなにダメな奴でもツナは俺の生徒だからな。誕生日プレゼントだ」

ズガアァァンッ

言うと同時に引き金が引かれて。
僕は文句を言う間もなくその場に倒れた―――。
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