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□恋文
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その人はオレの天敵だった。



恋 文



「いい加減にしなよ。沢田綱吉」

耳に響く美低音。
剣呑な響きを含んでいるにも関わらず、思わず聞き惚れそうになる。
けれども鬼の形相のその人を見て、慌てて頭を下げた。

「すみませんでしたっ!」

ペコペコとひたすら謝るオレの頭上からタメ息が聞こえた。

「謝罪はもう聞き飽きた」

言葉と共にヒュンと音をたてた銀色に咄嗟に目を閉じる。
次の瞬間首にヒンヤリと冷たい感触。

「今月に入って何度目だと思ってるの?」

かなりご立腹の様子で頸動脈に押し当てられたトンファーに徐々に力が込められていく。

「よ、四回・・・かな?」

答えたらトンファーで眉間を小突かれた。
この人にしてはえらく優しい対応。
本来なら頭をカチ割られていたとしてもおかしくない。

「微妙なサバ読むんじゃないよ。五回目だ」

「うぅ・・・すみません・・・」

何が五回目かって―――遅刻が、だ。
新学期が始まってまだ日が浅いというのに既に五回。
そりゃあ鬼の並盛中学風紀委員長様じゃなくても怒るだろうというダメっぷり。

「一人で起きる事も出来ないなんて、これから先どうするつもりだ」

と、家庭教師のスパルタな教育方針で母さんもビアンキも、勿論家庭教師――リボーンも起こしてくれなくて。
目覚まし時計を頼りになんとか頑張ってはいるんだけど。
遅刻か遅刻ギリギリの毎日で。
元々遅刻魔だったオレはすっかり風紀委員長――ヒバリさんに目を付けられてしまった。

並盛最強(凶)の独裁者であるヒバリさん。
資産家のお坊っちゃんのくせに泣く子も黙る最強の不良。
孤独を好み、並盛の風紀を乱す者を許さない孤高の浮雲。
そんな彼はどんな気紛れかボンゴレの雲の守護者になってくれた。
本人にそんな気は無いだろうけれど、今まで何度もオレ達をピンチから救ってくれたんだ。

ヒバリさんが肉食動物ならオレは草食動物。
狩る者と狩られる者。
正しく天敵と言えるヒバリさんだけど。
勿論怖いけれど、同時に強く憧れる。
あの強さに、意志の強い瞳に、凛とした立ち姿に。
どうしようもなく惹かれてしまうのだ。
あんな風になれたらいいというオレの理想の人。


「聞いてるのかい?沢田綱吉!」

ゴインッと音をたてて再び眉間にトンファーの一撃。

「痛ッ!す、すみません・・・」

怒られてる最中だって言うのにボーッとしてしまった。

「もうすぐ本鈴が鳴る。続きは放課後だ。授業が終わったら応接室に来なよ」

「は、ハイっ」

本格的に咬み殺されるのは放課後か・・・。
オレは少しだけ延びた寿命に感謝して校門を潜った。
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