main@

□Hot chocolat
1ページ/1ページ

泣く子も黙る鬼の風紀委員長だって、思春期の男の子なのだ。


いつになく浮ついた空気の並盛中学校。
それもそのはず。
今日は聖バレンタインデー。
女子も男子もどこかソワソワと落ち着かない。
あっちもこっちもチョコだらけ。

それは、ここ。並中の応接室も例外では無かった。
大きなダンボール2箱分のチョコレートが部屋の隅に置かれている。
それらは全部女子生徒から雲雀へのチョコレート。
鬼だ、悪魔だ、阿修羅だと恐れられる雲雀だけれど。
黙って立っていれば超が付くほど格好いい。
陶器のような滑らかな白い肌に、さらさらと絹糸のような漆黒の髪。
鋭く涼しげな目元に、酷薄そうな桜色の唇。
枝垂れ桜みたいな高貴で妖艶な色気。
他の男子とは住む世界がまるで違う白皙の美少年。
乱暴すぎる面はあるけれど、並中を愛し、守るヒーローでもある。

したがって、女子の人気はかなり高い。
表立ってそれを公言する勇気のある者は居ないけれど、密かに憧れている女子は多いのだ。
直接渡す勇気は無いけれど、どうしてもチョコを渡したい!
そんな女子が雲雀の下駄箱に、応接室の前にソッと置いて行くチョコレート。
それらをかき集めた物が、あのダンボールに入っている。

でも、雲雀が欲しいのはそんなその他大勢からのチョコじゃない。

雲雀が欲しいと思うチョコはたったひとつ。
可愛い恋人、綱吉からのチョコだ。
2人が恋人同士になってから初めて迎えるバレンタイン。
いつ綱吉が『ヒバリさん、チョコ貰って下さい』と、応接室のドアを開けるのかと朝からソワソワしている。
落ち着かないまま1日を過ごして、いよいよ放課後。
綱吉にはよく放課後に風紀の仕事を手伝って貰っているから、きっと今日も来るに違いない。

「こんにちはー!」

そうしてようやく開かれたドア。
ニコニコと綱吉が応接室にやって来た。
真っ直ぐ雲雀の執務机の前までやって来ると、モジモジし始める。
綱吉がモジモジしてる理由なんて分かっていたけれど。

「何?どうしたの」

知らないふりして聞いてみれば。

「えっと、チョコ・・・貰ってくれますか?」

真っ赤になりながらおずおずと差し出されたチョコレート。
頬が緩むのを止められないまま、雲雀はその包みを受け取った。

「ありがとう。綱吉」

微笑みながら受け取ってもらえた事にホッとしたのか、綱吉はふにゃりと笑う。
そんな綱吉をソファに座るよう勧めて、自分も綱吉の隣に座った。

「開けてもいいかい?」

「ハイ!」

落ち着いた茶色のリボンを解き、モスグリーンの包装紙を丁寧に剥がしてフタを開ければ。

「ワオ!美味しそうだね」

上品な抹茶のチョコレートが現れた。

「食べてもいい?」

「もちろんです!」

パクリとひとつ口に入れれば途端に広がる抹茶の風味。
噛んでみれば中からトロリと濃厚でほろ苦い抹茶みつが。

「うん。美味しい」

「本当ですか!?よかったぁ」

嬉しそうな綱吉を見ながら、雲雀は何かを思い出したように。

「ああ、そうだ。ばあやから君にバレンタインチョコがあるんだよ」

「え、ばあやさんからですか?」

「うん。ちょっと取ってくる」

「ありがとうございます」

綱吉を応接室に残して雲雀は調理実習室へと向かった――。


――それから15分程経って。
綱吉が不安になり始めた頃、雲雀はようやく戻って来た。

「ごめん。遅くなったね」

「いいえ」

ホッとしたように笑う綱吉の前に、ガトーショコラの乗った皿を置く。

「わぁ!美味しそう」

「ばあやの手作りだよ」

「さっそく、いただきます!」

しっとりこってりのガトーショコラ。
甘くてほろ苦くて、添えられた生クリームと一緒に食べるとまた別の味わい。

「美味しいですっ」

「そう、よかった。・・・あと、これ」

コトリと置かれたのは綱吉愛用のマグカップ。
その中には。

「ココアだ!」

甘くカカオが香る温かいココア。

「これ・・・」

「僕が作ったから美味しいかわからないけど。・・・・僕からのバレンタイン」

そっぽを向きながら、でも耳を紅く染めて。
雲雀から綱吉へのバレンタインプレゼント。

「えへへ、ありがとうございますっ」

雲雀は嬉しそうにココアを飲む綱吉を、こっそり横目で伺う。

「美味しいっ!これ、すっごく美味しいです!」

インスタントのココアをお湯で溶いただけのココアじゃない。
きちんとミルクパンで温めた牛乳にココアを溶かし、更に隠し味に板チョコをひとかけら。
甘くて濃厚で本当に美味しいココアだ。

「そう」

雲雀はそっけなく頷いたけれど、やっぱり耳が紅く染まったまま。

「・・・なんか本当に夢みたい」

「え?」

ポツリと呟かれた綱吉の言葉を雲雀は聞き逃さなかった。

「オレ、去年までチョコレートなんて母さんからしか貰えなくて・・・。でも今年は色んな人から貰いました」

そう言って綱吉は大事そうに鞄を擦る。

「ビアンキにイーピン、京子ちゃんにハルにクローム。それから獄寺君からも友チョコ貰っちゃいました」

それを聞いて雲雀は面白くない。
だって雲雀が欲しかったのは綱吉からだけだったのに。
自分以外から貰ったチョコを大事そうにしてるなんて、面白いわけがない。
そんなチョコは没収!そう言いかけた時。

「でも、このココアが1番嬉しいです!ヒバリさんからのが1番」

「・・・・普通のココアだよ」

「そんな事ないです。・・・・幸せの味がします」

「・・・っ!」

胸を突き上げるような愛しさに駆られて口付けた綱吉の唇は。
チョコよりもココアよりも甘かった――。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ