Kuroko

□あいを語る。
1ページ/1ページ

それは時に言葉よりも雄弁に愛を語るのだ。


自動改札機にICカードをペタリ。
改札を抜けた所で、黒子はポケットから携帯を取り出すと、時間を確認した。
黄瀬と約束した時間の2時間前であることを確認して、ひとつ頷いて携帯をしまい、今度は肩に掛けていたトートバッグを漁る。
見つけ出した財布の中から、小さく折り畳まれたメモ用紙を取り出した所でふと気付く。

(ああ、携帯のメモ機能を使えばよかったんだ)

未だにガラケーを使っている黒子に、黄瀬は「スマホにすればいいのに」と言うけれど。
ガラケーさえ使いこなせていない自分には宝の持ち腐れというものだ。
そう思いながらカサリとメモを開く。

・豆腐1丁(絹ごし)
・ネギ
・油揚げ

内容を確認すると、スーパーへと急ぐ。その足取りに迷いはない。
神奈川にあるこの街は、本来なら東京に住む自分の生活範囲外だった街。
けれど、何度も通ううちにスーパーにマジバにレンタルビデオ屋に本屋。
目的の場所までにいくつかあるコンビニの種類とかファミレスとか。
何がどこにあるのかすっかり覚えてしまった。
黄瀬と恋人同士になって1年の間に――。


始まりは黄瀬からの告白だった。

「オレ、黒子っちのこと好きなんスけど」

夏の終わりの黄昏時。
休日もバスケ部の練習があり、その帰り。
誠凛の校門前で待ち構えていた黄瀬に呆れつつ、バニラシェイクを奢ってくれるという言葉につられて一緒にマジバへと向かった。
その途中で、サラリと告げられた好意。
マジバに誘うのと同じ口調で告げられた告白を思い出して、思わず口元に笑みが浮かぶ。
思い出し笑いをしている自分に気付いて、思わず周りをキョロキョロと見回したけど、影の薄い自分は周囲の人の眼中にも入ってなかった。
怪しい人だと思われずに済んだらしいことに胸を撫で下ろしながら、スーパーに入り買い物カゴを手に取る。
まずは野菜売り場へ。
長ネギを1本カゴへ入れて、今度は豆腐売り場を探す。
すぐに見つけられたけど、思いのほか種類があって迷ってしまう。
とはいえ、迷ったところで違いなどわからないから、1番安いのにした。
油揚げも同様に安いやつを選ぶ。
食材が揃ったことを確認してレジで清算し、スーパーを出た。
あとは目的の場所――黄瀬の家に向かうだけ。
途中でマジバに寄り、バニラシェイクを買って飲みながら歩く。
ほどなくして黄瀬の住むマンションが見えてきた。

高校に進学して、黄瀬は神奈川に移り住んだ。
東京の自宅から通えない範囲ではなかったけれど、バスケ部の練習量を考えると、なるべく学校に近い方がいい。
寮があるけれど、自由がきかないのは嫌。
だから一人暮らししたい、という黄瀬の我儘を彼の両親は許さなかった。
さすがに、中学を卒業したばかりの息子を一人暮らしさせるのは抵抗があったらしい。
寮に入れと言われ、泣く泣く諦めかけた黄瀬に助け船を出してくれたのは、1番目の姉。

「私と2人で暮らすならいいんじゃない?」

その年、ちょうど大学を卒業。横浜にある化粧品会社に就職が決まっていて、少し遠いからと一人暮らしを始める予定だった長女がそう提案してくれた。
姉は少しうるさい所があるけれど、面倒見はいい方だし、なにより寮よりずっと自由がきく。
だから、黄瀬はその提案に飛び付いた。
親としても、娘の一人暮らしが少し心配だったのか、その提案を飲んだ。
なので、今黒子が向かっているマンションは、正確には黄瀬とその姉が住むマンションである。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ