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□並盛温泉物語
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並盛よいとこ1度はおいで。



都心から電車に揺られて1時間とちょっと。
気軽に行かれる温泉郷。それが並盛温泉だ。
青い海に緑の山々。取れたての海の幸に山の幸。
良質な泉質を持つ豊富な源泉。情緒溢れるレトロモダンな町並み。
人々は皆、癒しを求めてこの地を訪れる。
おまけに温泉街の守り神、並盛神社がパワースポットとしてテレビで紹介されたおかげで、ますます賑わう並盛温泉だった。
さて、そんな並盛温泉。
今、ある話題でもちきりである。
その話題の中心となる人物が―――。


「・・・不味い」

「えーーっ!どうして〜?」

幼い眉をへにゃりと垂れて情けない声を上げる少年。
沢田綱吉。通称ダメツナ。
勉強もダメ。スポーツもダメ。何をやってもダメダメな所から付いた、実に不名誉な渾名である。

「もう1度最初からだ」

そんな綱吉にダメ出ししているのは黒いスーツをビシリと着こなし、やはり黒の中折れ帽を被った――小さな赤ん坊。
名をリボーンというこの不思議な赤ん坊は、綱吉の家庭教師。
そんな関係の2人は今、数学を勉強しているのでも、英語を勉強しているのでもない。
綱吉はリボーンから『美味しい紅茶の淹れ方』を学んでいた。

「オラ、さっさとやれ!『Festa di fragola』までもう時間がねーんだぞ!」

「分かってるよぉ・・・」

綱吉はいかにも渋々といった様子で、再び紅茶を淹れる準備を始める。

(あーあ・・・、三ヶ月前だったらこの時間は部屋でマッタリまんがタイムだったのに・・・)

リボーンにバレぬよう、コッソリとタメ息をひとつ。


平凡な中学生だった綱吉の生活がガラリと変わってしまったのは三ケ月前の事。
土曜日の朝、学校は休みだというのに、朝6時に母・奈々に揺さぶり起こされて。

「ツッ君、お引っ越しよ♪」

と、近所のスーパーにでも行くかのような軽いノリで言われて。
ワケも分からず混乱している間に、引っ越しのプロ達があっという間に荷物を纏め、運び出して行く。
「引っ越しなんて聞いてない!」というツッコミもままならぬまま、トラックに乗りこみ、長年住んでいた都心の小さな一軒家を後にして。
トラックにゆらり揺られて辿り着いたのが―――この並盛温泉だった。

「ほら、あれよ!ツッ君」

奈々の指差す方を見てみれば、そこには海を臨む小高い丘の上に建つ、真白い壁にシチリアの太陽をたっぷり浴びたオレンジのような色の屋根の建物。

「あの建物がどうしたの?」

「あそこが今日から私達が住む所よ」

「はあぁ〜!?」

ますます混乱する綱吉をよそに、トラックは静かにその建物の前に停まる。
麓から見た時よりも遥かに大きく感じる建物に、綱吉は圧倒される。

「っていうか、ここって・・・」

『HOTEL VONGOLA』。建物をぐるりと囲む白い壁にはそう書かれた金プレートが。

「ホテルなんじゃないの〜!?」

「早く、早く。ツッ君♪」

呆然とする綱吉の手を引いて、奈々はウキウキと正面玄関へと進む。

「一体どうなってんの?」

「あ、居たわ。出迎えてくれたのね」

奈々が嬉しそうに手を振るその先には。

「父さん・・・」

綱吉の父、家光が居た。

「よう、久し振りだな。元気だったか?」

「そうだね、2年振り・・・ってそうじゃなくて!今日からここに住むってどういう事?しかもその恰好・・・」

家に居る時はランニングにトランクスという、だらしない格好をしているくせに。
今日はビシリとブラックスーツで決めている。
家光はきゃんきゃんと喚く綱吉の頭をモフモフと撫でて。

「とりあえず中へ。ここではお客様の邪魔になる」

「う、うん・・・」

そうして、中へと案内されて。
ロビーを抜けたその先。
海を臨むカフェテラスに落ち着いた。

「そうか、『HOTEL VONGOLA』って父さんの・・・」

「そう。俺が勤めているホテルだよ」
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