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□小動物進化論
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ふわりと風に揺れるリーゼント。

ヒバードは鏡に映った自分の姿にうっとりと見惚れた。
鏡に映る己の丸く小さな頭には、羽根と同じ黄金色のリーゼント。

ヒバード イケテル!

どの角度から見てもカッコイイ、とヒバードは大満足。自分の進化にご満悦だった。


遡ること、十時間前―――。

「――委員長!どうなさいました!」

すっかり夜も更けた雲雀家の玄関に、突然響いた草壁の悲鳴じみた叫び声。
ウトウトと眠りかけていたヒバードは、ビクリと目を覚まして。何事かと玄関に様子を見に行ってみれば。

『ヒバリ!』

今までに見た事が無いくらいボロボロになった雲雀が、ロマーリオに支えられていた。
今日は雲雀の恋人、綱吉が正式にボンゴレボスとなる為の継承式が執り行われるからと、おろしたてのブラックスーツを身に着けていたはずなのに。
見るも無残に破れ、血に塗れている。

「これは一体・・・・」

青ざめた草壁がロマーリオに代わり雲雀を支える。

「理由は本人に聞いてくれ。俺達はすぐに戻らなければならない」

そう言うとロマーリオは慌ただしく出て行ってしまった。

「とにかく治療を」

スーツ同様、雲雀自身も傷だらけ。簡単な手当てはしてあるようだったけれど、草壁は雲雀を支えながら奥へと進んだ。
そして雲雀を座椅子に座らせると、治療の用意を始めた。

『ヒバリ ヒバリ イタイ?』

それまで黙って様子を見ていたヒバードだったけれど、雲雀の立てた膝にチョコンと乗って容体を伺う。

「・・・平気だよ。傷はね」

でもプライドはズタズタ、と苦々しげに呟く。
そんな雲雀の腕を取り、治療をしようとした草壁が大きな声を上げた。

「委員長、ボンゴレリングは・・・!?」

雲雀が指に嵌めていたはずの雲の守護者の証。雲のボンゴレリングが見当たらない。

「・・・シモンの奴らに砕かれてしまったよ」

「シモン?では、沢田さんを狙っていたのは至門中学の!」

彼らが敵だったなんて、と青ざめた顔で雲雀の手に薬を塗る。その手を見て、ヒバードはもうひとつの事に気付いた。

『ロール?ロール?』

雲雀の指に嵌まっていたもうひとつの指輪。ロールのアニマルリングも無い。
匣アニマルのロールはヒバードの部下(だと思ってる)。
まさかロールの指輪まで砕かれてしまったのか、とヒバードは慌てた。

「ああ、安心しなよ。ここにいる」

差し出された雲雀の左手首にキラリと輝くブレスレット。

「おお!委員長、これは・・・」

「リングは砕かれたけれど蘇ったんだ。アニマルリングと共にバージョンアップしてね」

その言葉に草壁とヒバードは安堵の息を吐く。でも。

『ヒバリ・・・ ツナヨシ?』

ヒバードの友達でもある綱吉。今日の雲雀の役割は、他の守護者と共に綱吉の警護だったはず。
最強の守護者である雲雀がこの状態。綱吉は大丈夫なのだろうか、とヒバードは不安に駆られた。

「綱吉も大丈夫・・・。でもたくさん傷付いた。身体もだけど、きっと心の方が・・・」

小さな小さな草食動物。昔の綱吉よりも遥かに頼りないと思った至門中学の古里炎真。
そんな小動物の彼が突如剥いた牙は、どんな肉食動物をも噛み殺しかねない強大な物だった。
その力を前に雲雀はなす術もなく、ひれ伏すしかなかった。
目の前で綱吉が炎真にいたぶられるのを見ている事しかできなかったのだ。

どうして炎真君。どうして・・・・!

友達だと信じていた炎真の裏切りに傷付いた綱吉に駆け寄る事もできずに。
 
ダンッ!と激しい音をたてて畳に叩き付けられた拳。
指が白くなるほど強く握りしめられたその拳に、ヒバードは雲雀の怒りや悔しさを感じた。

「・・・もう寝る。明日は朝から修行だ」

「修行なさるのですか?」

「カンビオ・フォルマもバージョンアップしてる。奴らの聖地とやらに乗り込む前に完璧に使いこなせるようにする」

「聖地・・・。シモンの聖地ですか?」

「うん。どこかの島らしい。調べといて」

そう言うと雲雀はスクッと立ち上がった。

「委員長!せめて明日くらい身体をお休めに・・・」

草壁が慌てて止めたけれど。

「そんな暇ない・・・。僕はもう二度とあの子の前で無様な姿を晒すわけにはいかないんだ」

パシンと締められた障子。残された草壁とヒバードはしばしシンと黙りこくった後。

「・・・我々も少しでも委員長のお力に!」

『ヒバード ガンバル!』


―――と、草壁と共に雲雀を陰ながら支える決意を固めてから一夜が明けて。
ヒバードは雲雀と早朝の並中の屋上にやって来た。
いよいよバージョンアップしたカンビオ・フォルマを試す時。どんな風に進化しているのか、とヒバードはドキドキとしながら見守った。

「いくよ。ロール、カンビオ・フォルマ」

『クピイィィ!』

ロールが高く鳴いたと思ったら、雲雀の身体が光に包まれて――学ランもトンファーも変化していく。
その様子を見ていたヒバードだったけれど、いつの間にか自分の身体も光に包まれている事に気付いた。

ナニ? ヒバード ドウナッテル?

戸惑っている間に光は弱まり、カンビオ・フォルマ完了。
雲雀を見れば学ランは鳳凰の見事な刺繍が施された改造長ランに。トンファーもバージョンアップしていた。

ヒバリ カッコイイ!

雲の守護者のボンゴレギア。その美しく力強い進化にヒバードはうっとりと見惚れる。

「あれ?君もバージョンアップしたの?」

雲雀に言われてヒバードは目を瞬かせる。広げた羽根を見てみるけれど、特に変化は無い。
屋上を離れて窓から応接室に入り込み、鏡に自分の姿を映してみれば。

キタコレ!

ふんわり黄金色のリーゼント。
自分の頭の上には草壁と同じリーゼントがちょこんと乗っていた。
やっとこの日が来た、とヒバードは胸をときめかせる。
人間になれるまであともう少しだ、と。

・・・ヒバードは賢いけれど、所詮鳥だった。

盛大なる勘違いと、前向き過ぎる思い込み。
雲雀と自分は一心同体。雲雀がバージョンアップしたから当然自分もバージョンアップした。
喋れる、歌える、髪も生えた。次はもう人間になれるに決まっている。
かねてより人間になりたいと思っていたヒバードの期待は膨らむばかり。

モウスグ ニンゲンニナレル・・・

勘違いしたままのヒバードはうっとりと己の姿に見惚れ続けていたのだけれど。
ぼんやりと自分の身体が光に包まれているのに気付いた。

キタ! ツギハ ニンゲンニ シンカデキル!

ヒバードはウキウキと人間に進化するのを待った。けれど。

『・・・・アレ?』

光が消えた後には、いつも通りの自分の姿。さっきまで頭に鎮座していたリーゼントも消えている。

『ナ、ナンデー!?』

呆然としていると雲雀が応接室に戻って来た。その姿はいつものカッターシャツに、いつもの学ラン。

「ああ、ここに居たの。カンビオ・フォルマはもうマスターしたから。家に戻ってひと休みしたら綱吉を追うよ」

エ・・・ モシカシテ アノリーゼントハ・・・ 

雲雀のボンゴレギアの一部だったのか、とヒバードはガックリと項垂れた。
人間になれれば雲雀や綱吉と一緒に戦えたのに。
少しは二人の役に立てると思っていたのに。

「ほら、何してるの。早くおいで」

呼ばれて振り返れば、雲雀が自分に向かって手を差し出している。
 
こんな自分でも。
一緒に来い、と言ってくれる。
 
バサリと羽ばたき、雲雀の手に乗って。

「さあ、綱吉と一緒に戦う覚悟はできてるかい?」

不敵な笑みを浮かべる雲雀に。

『ピィ!』

もちろんだ!と胸を張って返事をする。

例え人間になれなくても。
小動物には小動物なりの戦い方がある。
 
ツナヨシ マッテル!

雲雀と共に目指すのは。
太平洋に浮かぶ絶海の孤島――――。

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