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□おじいちゃんと一緒
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またケンカしちゃった。
綱吉は自己嫌悪のあまり、膝に抱えたクッションにボフリと顔を埋める。
きっかけはいつも些細な事。
今回は綱吉が紅茶に砂糖を2杯入れたのがきっかけ。
放課後のいつものティータイム。
今日はちょっと肌寒くて、温かくて甘い物が飲みたかったから。
雲雀が淹れてくれた紅茶にたっぷりのミルクと、砂糖もいつもより多めに入れて、甘い甘いミルクティーにしたのだ。
そうしたら、それを見た雲雀に。
「そんな甘ったるい物飲んで。子供だね」
と、また子供扱いされたのだ。
からかわれてムッとなったけれど、ここで怒ったら更にからかわれるだけだと思ったから。
「ハンバーグが好物の人に言われたくないです」
ツンとした態度で反撃してみた。
「なに。君、ハンバーグを侮辱するのかい」
すると、雲雀は途端に不機嫌そうに眉を吊り上げる。
「ハンバーグを侮辱してるわけじゃないですっ。
ヒバリさんだってハンバーグみたいなお子様メニューが好きだなんて、子供っぽいって言ってるんです!」
怒る所違くない?と心の中でツッこみながら説明した。
「・・・・生意気」
面白くなさそうに、綱吉の柔らかい頬をギュムッと抓る。
「痛ッ!いひゃいれふっ!やめれくらはいっ!!」
涙目になりながら喚くと、ようやく手を離してくれた。
「もうっ!ヒバリさんの意地悪っ。もう知らないっ!」
フンッとそっぽを向けば。
「僕だって知らないよっ」
雲雀もフイッと横を向く。
そうしてお互い真逆を向いて、無言のままお茶を飲んで。
「ごちそーさまでしたっ!」
お茶を飲み干すと同時に、綱吉は応接室を飛び出して家へと帰って来たのだ。
けれども家に帰って落ち着いてみれば、あまりにも子供っぽ過ぎたと思えてきた。
雲雀が綱吉をからかうのは、愛情表現のひとつだってちゃんと分かっている。
「もっと素直になれないかな・・・」
おっとりしているようで、実は負けん気の強い一面もある綱吉は、そんな雲雀の態度についついムキになって反発してしまう時がある。
素直に甘えればいいのに、といつも思うのだけれど。
性格なのか、はたまた大人っぽい雲雀に少しでも近付きたい気持ちが空回るからか。
なかなか素直になれない。
「可愛らしい悩みだな」
自分1人しかいない部屋に突然響いた声。
「えっ?えっ?あ、貴方は・・・!」
いつの間にか綱吉の隣に座っていた人物。それは。
「プリーモさんっ!」
初代ボンゴレボスであるボンゴレT世だった。
「ど、どうしたんですか?修行ですか?」
ボンゴレリングが真の姿を現して以降、たまに姿を現すようになった初代達。
綱吉の元にも、今まで何度かプリーモが現れて、修行を見てくれていた。
「いや?なんだかデーチモが悩んでるみたいだったから」
いい子、いい子とでも言うように頭を撫でられる。
その心地よさに、綱吉はふにゃんと顔を綻ばせた。
とうの昔にこの世の人ではなくなってしまった存在。
本来なら幽霊の類が怖い綱吉だけれど。
プリーモの存在は綱吉に妙な安心感を与える。
(やっぱり血が繋がってるからなのかなー)
綱吉には祖父母が居ないから、おじいちゃんてこんな感じなのかも、と和んでしまうのだ。
「よし。俺が協力してやろう」
「え?」
突然の申し出に、綱吉は目をパチクリさせる。
「素直になりたいのだろう?俺が手本を見せてやろう。雲の守護者と仲直りさせてやる」
「ど、どうやって・・・」
「明日のお楽しみだ」
意味ありげに微笑んで、プリーモは消えてしまった。
「どういう事だろう・・・」
疑問は残ったけれど、雲雀と仲直り出来るのなら、と綱吉はプリーモに期待する事にした―――。
「――もう放課後なんだけど」
翌日、プリーモがいつ出てくるのかと期待して待っていたけれど。
結局出てこないまま放課後を迎えた。
いつもならば応接室に行くのだけれど、どうしたらいいんだろうと綱吉が迷っていると。
「うぇっ!?な、なに・・・・」
突然悪寒が走って、次の瞬間には膝から力が抜けて。
「十代目っ!」
「ツナ!?」
ガクリと膝を着いた綱吉に、獄寺と山本が駆け寄る。
「・・・・大丈夫。なんでもない」
綱吉は何事も無かったかのように立ち上がると、「じゃあ」と言い置いて歩き去ってしまった。
「・・・なぁ、ツナなんか雰囲気違くなかったか?」
「ああ、妙に大人びてたような・・・」
残された獄寺と山本は、ポカンとその背中を見送った。
『ちょっと、どういう事ですかー!』
綱吉は思いっ切り叫んだ。つもりだけれど。
「なんだ、デーチモ」
『なんだじゃありません!オレの体・・・乗っ取りましたねー!』
そう。綱吉の体は今、綱吉の物であって綱吉の物ではない。
意識をプリーモに乗っ取られ、意識を押さえ込まれて体の自由がきかない。
「手本を見せてやると言ったろう」
『そりゃそうですけど・・・』
まさかこんなやり方するなんて!と綱吉は思う。
混乱しているうちに、プリーモは応接室の前に立っていた。
「よく見ておけよ」
言うなりドアをコンコンとノックする。
「どうぞ」
と中から返事があって、プリーモはドアを開けた。
「失礼します」
入って来た綱吉(中身はプリーモ)を見て、雲雀が息を飲む。
「・・・なんの用なのさ」
まだ怒っているのか、引っ込みがつかないだけなのか。
雲雀はそっけない態度。
「ヒバリさん・・・ごめんなさい・・・」
素直な謝罪に、雲雀がようやく綱吉の方を見た。
「オレ、ヒバリさんがいないと生きていけません・・・」
だから許して?と瞳をうるうるさせて上目使いに懇願。
すると、雲雀が椅子から立ち上がって、綱吉に歩み寄った。
「今日は妙に素直なんだね」
「ヒバリさん、ツナを許してくれる?」
小首を傾げて雲雀のシャツをキュッと握れば。
「ッ!僕こそごめんっ。拗ねる君が可愛くて・・・」
つい苛めてしまった、と雲雀は感極まったように綱吉を抱きしめる。
雲雀に見えないのを確認して綱吉はニヤリと笑った。
「ね、ヒバリさん。仲直りのキス・・・して?」
雲雀の胸に擦り寄りながら可愛くおねだり。
『ギャー!何言ってんですかっ。オレ、そんな恥ずかしい事言いませんっ!』
(うるさいぞ、デーチモ。どうだ、チョロイもんだろう)
「綱吉・・・」
雲雀が綱吉の体を離して、肩に手を置いて。
近付いて来る雲雀の顔に、綱吉は突然悲しくなった。
今の綱吉は綱吉だけど綱吉じゃない。
例え自身の身体でも、プリーモの意識に占領されている体で雲雀とキスするのは嫌だった。
だって雲雀が自分じゃない、他の人間とキスするのを見せつけられているような気がしたから。
『ヤダヤダ、ヤダーッ!』
叫んだけれど、唇が触れるまであと少し。
けれど。
「君、誰?」
唇が触れる直前、雲雀はピタリと止まって訪ねてきた。
「え?オレ、綱吉ですよ?」
「違うね。君は綱吉の姿をしてるけど綱吉じゃない。あの子を何処にやったの」
唇の代わりに綱吉に押し付けられたのは銀色に光るトンファー。
「なんだ。バレてたか」
肩を竦めると、小さくタメ息を吐いて。
「わっ!」
突然ガクンと力が抜けた綱吉の体を雲雀が支えた。
「戻った・・・・」
プリーモの意識が出て行って、やっと取り戻した体にホッとする。
「なんだ、ラブラブじゃないか。つまらん」
プリーモがつまらなさそうに唇を尖らせる。
「オレ達で遊ばないで下さい!」
「仲直り出来たのは俺のおかげだろう」
「そうですけどぉ・・・」
「ケンカもほどほどにな。まぁ、ケンカする程仲が良いとは言うけどな!」
そう言うとプリーモはスゥッと姿を消した。
シンと静まり返る応接室。
静寂を破ったのは雲雀だった。
「・・・君のご先祖、タチ悪いんだけど」
「すみません・・・」
「で、続きは?」
「え?」
「続きだよ。続き」
雲雀は自分の唇をクイクイと指差す。
意味が分かって、綱吉はボッと赤面した。
「早く」
「オレからするんですか・・・?」
「君から言いだした事だろう」
仲直りのキスをして、と言ったのはプリーモであって綱吉ではないけれど。
雲雀とキスしたいのは綱吉だったから。
嬉しそうに待ち構える雲雀に。
そっと触れるだけのキスをした――。