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□マメ知識
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ねえ、知ってる?


ピロリン♪という電子音が聞こえて。
オレはマンガを読む手を止めて、ガサガサと枕元を漁った。
雑誌とパジャマとパンツの下からようやく目的の物を探り出した。
まだピカピカの真新しい携帯電話。
パカリと開ければ新着メールを知らせるアイコンが。
慣れない手付きで携帯を操作して、受信メールを確認する。

「獄寺君からだ」

『お疲れ様です明日の日曜ですが遊びに行ってもいいですか?
十代目が食べたいとおっしゃっていたを持っていきます!』

ケーキって雑誌に載ってたあれかな。
並盛デパートに新しく入ったケーキ屋さんのショートケーキ。
上に乗ってる苺が凄く大きくて美味しそうだったんだよね〜。

「えーっと・・・『楽しみに待ってるよ』・・・と」

モタモタとメールを打って送信する。
携帯を手に入れて1ヶ月。やっと少し慣れてきたんだ。
本当は高校生になったら、って約束だった携帯電話。
母さんにおねだりして、1年前倒しして買ってもらったのにはわけがある。
この春、オレの恋人であるヒバリさんが一足先に並中を卒業してしまって。
今までのように放課後に気軽にヒバリさんに会う事が出来なくなってしまった。
すでに進学先の並盛高校を牛耳っているヒバリさんは、高校に遊びに来ればいいと言ってくれるけれど。
やっぱり気が引けるから1度も行ってない。

そんなわけですっかりヒバリさん不足になってしまったオレは、せめて声だけでも聞きたくて。
電話を、と思っても、家には居間にしか電話は置いていない。
うるさいランボにイーピン。
からかってくるリボーンやビアンキ。
それに興味津々顔の母さんの目が気になって、電話なんてできやしない。
だから。
お願いだから携帯を買ってと、母さんに懇願。
最初は「ダメ」の一点張りだった母さんだったけれど、しつこく強請ったら「実力テストで全教科50点以上取ったら買ってあげる」と。
50点なんて簡単だろう、と言われそうだけど、オレにとっては高い壁。
でもどうしても携帯が欲しかったから。
毎日獄寺君に勉強を見て貰って、夜遅くまで頑張った。
本当に本当に頑張って、ボロボロになりながらテストに挑んで。
そうして結果は――全教科(ギリギリだったけど)50点を超えたんだ。

約束通り携帯を買って貰って、オレは大喜び。
早速ヒバリさんと番号とメルアドを交換して、これでまた毎日声が聞ける、と思ったのに。

「バカツナが。電話代がいくらかかると思ってんだ」

と、リボーンに言われて気が付いた。
そうだよね。毎日長電話したら通話料がとんでもない事になってしまう。
だから、結局メールでのやりとりばかり。
それでもヒバリさんと繋がってる感じが嬉しくて、オレは満足している。


「それにしても・・・ケーキの絵文字なんてあるんだぁ」

獄寺君が送ってくるメールは絵文字がいっぱいで楽しいんだ。
オレは母さんに有料サイトに登録したらダメって言われてるから、あんまりダウンロード出来ないんだよね。
ちょっとつまんない。
でも、ヒバリさんからのメールはもっと殺風景。
大抵『おはよう』とか『おやすみ』とか『今から部屋に行く』とか用件を一言だけ。
絵文字どころか句読点すら入って無い事が多い。

「まあ、ヒバリさんらしいけどね」

呟きながらヒバリさんへのメールを打つ。
毎晩恒例のおやすみメールだ。
今週はヒバリさんに用があって、折角の週末も会えなかった。
すごくガッカリしたけど、ヒバリさんは忙しい人だからしょうがないよね。

『今日の夕飯はハンバーグだったんですよ。ヒバリさんも今度食べに来て下さいねでは、おやすみなさい』

送信して、再びマンガに手を伸ばした時。
ピロリン♪とメールの受信音。
きっとヒバリさんからの返信。
また『おやすみ』の一言だろうな、と思いながらメールを確認すれば。


『来週は美味しいプリンを用意しておくから遊びにおいで。おやすみ』


「ええっ!?」

ヒバリさんがプリンの絵文字!
うわぁ、なんか・・・・

「可愛いんですけど〜・・・」

普段の無愛想さとのギャップに、不覚にもときめいてしまった。
こんなの不意打ち!
明日の苺ショートよりも来週のプリンの方が楽しみになってしまったオレだった。

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