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□魅惑のクリームソーダ
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『今日も38℃を越える猛暑日となるでしょう』


ヒートアイランド現象に喘ぐ日本列島。
痛いくらいの日差しに、アスファルトの照り返し。
両面焼きグリルで焼かれる魚になった気分だ。

「暑うぅ〜・・・・」

流れる汗を拭っても、後から後から汗が噴出してくる。
このままじゃ冗談抜きで干物になっちゃう。
とにかく早く終わらせてしまおうと、オレは再びデッキブラシを握った――。


夏は暑い。暑いけどオレ達学生にとっては最大のお楽しみである『夏休み』がある。
終業式に貰った通知表は散々だったし、来週からは補習もあるけど。
とりあえず夏休み初日の今日は、冷房の効いた部屋でアイスでも食べながらゴロ寝してマンガを読む――はずだったのに。

『綱吉。明日はいつも通り8時半までに学校においで』

昨夜、ヒバリさんからかかってきた電話。
ヒバリさんはそれだけ言うとさっさと電話を切ってしまった。
なんだかわけが分からなかったけれど、言う通りにしなければ痛い目に合うことは分かってる。
だから素直に学校に来てみれば――。

「おはよう。さあ、頑張って」

応接室に行けば、すでに登校していたヒバリさんから手渡されたバケツとデッキブラシ。
受け取ったものの、何を頑張るのか分からずに首を傾げる。

「君は7月だけで8回も遅刻したね、夏休み目前だったからといってたるみすぎだよ。だから」

罰としてプールの掃除だ、と実に意地の悪い笑顔。
さすが天下の風紀委員長。恋人にも厳しいんですね。
でも、オレが遅刻をしたのは事実だし、本来なら咬み殺されてもおかしくない。
罰掃除くらいで許してもらえるのは、やっぱり恋人の甘さかも。
なーんて考えが、実に甘かったとオレはすぐに気付いた。
いくら朝早いとはいえ、7月の日差しは厳しく、熱気でグランドが揺らめいて見えるくらい。
授業中はたくさんの生徒で狭く感じるプールは、1人だけでは広すぎる。

「しんどいな〜」

文句をたれつつも、一生懸命プールの掃除をして。
そうして3時間近くかかって、ようやく掃除を終わらせたオレはフラフラしながら応接室へ向かった。

「ヒバリさん、掃除終わりました〜」

「ご苦労様」

ヒバリさんは涼しげな顔で書類に目を通していた。
エアコンはつけてないけど、大きな窓を開け放って、廊下側の窓やドアを開けているおかげで涼しい風が通る。
炎天下のプール掃除に比べたら、エアコンがついてなくても天国だ。

「はふぅ〜」

「失礼します」

ソファに座って一休みしていると、こんなに暑いというのに学ランをきっちり着込んだ草壁さんが入ってきた。
そうしてガラステーブルにコトリと置いたのは背の高いグラス。

「うわぁ!クリームソーダだ!」

シュワシュワと泡をたてるエメラルドグリーンの炭酸水。
その上には真っ白なバニラアイス。
そして真っ赤なチェリー。
見るからに涼しげで美味しそう。

「ご褒美だよ」

どうぞ、とヒバリさんが勧めてくれるから。

「いただきます!」

まずはアイスをパクリ。
濃厚なバニラアイスは口に入れた途端にトロリと蕩ける。
カラカラに渇いた喉に冷たい炭酸水が気持ちいい。

「生き返る・・・・」

じっくりクリームソーダを堪能して、最後にチェリーを食べて。

「ごちそうさまでした!」

「うん」

すっかり汗もひいて、極楽気分だったんだけど。
ヒバリさんが立ち上がって、ガラステーブルにドサリと何かを置く。
何かと思ってみればそれば参考書の山。

「えっ・・・え?」

一体何事かと目をパチパチと瞬かせていると。

「次は勉強だよ」

「な、なんで・・・」

「明日からの補習。最終日にテストがあるの知ってるよね?」

並中の夏の補習は前期と後期に分かれている。
前期の最終日に行う確認テストで50点以上取れなければ、後期の補習にも出なければならない。
ちなみにオレは去年、後期もバッチリ参加だった。

「前期だけで済むように僕が協力してあげる」

今日から6時間は勉強してもらうよ、と悪魔の笑み。
なんでそんな事に・・・!

「え、補習の後にですか・・・?」

「当たり前だよ。補習の後にみっちり6時間だ」

「どうしてですかぁ・・・・」

あまりの事に涙が滲んできた。
オレの夏休みが!

「・・・軽井沢に別荘があってね」

「え?」

「並盛海岸の花火と、並盛神社の祭」

「え?え?」

ヒバリさんの言ってる事が分からなくて首を傾げていると。

「だからっ!後期の補習なんて出てる場合じゃないって言ってるんだよっ」

プイッと横を向いたヒバリさんの耳が赤い。
もしかして・・・全部オレと行きたいって事?
思わぬ展開にオレも顔が熱くなる。
嬉しすぎて眩暈がしそうだ。

「・・・頑張ったらクリームソーダも飲ませてあげるから」

勉強が終わったら飲ませてあげる、と。

冷たくて甘いクリームソーダ。
魅惑のクリームソーダに釣られたふりして――オレはコクリと頷いたのだった。

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