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□チャームポイント
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これ誰だろう?


夏休み満喫中の綱吉は、今日も雲雀の家に遊びに来ていた。
けれど。
例によって黒曜の不良連中が暴れているとの連絡が入って――雲雀は嬉々として出掛けて行った。
ひとり残された綱吉はもう慣れたもので、ナッツとロールと一緒にゴロゴロと寝っ転がりながら雲雀の帰りを待っていた。
そんな綱吉を見たばあやが差し出した1冊のアルバム。
そのアルバムを開いてみれば、雲雀の幼少の頃の写真がたくさん貼られていて。
綱吉はきゃあきゃあと歓喜の声を上げながら、そのアルバムを堪能していた。
まだ赤ん坊の頃のもの。幼稚園の入園式のもの。
2人の兄、壱弥と愁弥と共に写っているものもある。
雲雀は写真が嫌いだから。
どれもこれも不貞腐れた顔で写っているのが可愛らしい。

そうしてペラペラとページを捲っていると、1枚の写真に目が止まった。
小さい頃から人嫌いなのか、家族と写っている写真だって少ないのに。
1枚だけ、同年代の男の子と写っている写真があった。
大きなビニールプールで水遊びをしている写真。
たぶん4、5歳くらいだろう。
やはり仏頂面で黄色いあひるのビニール人形と戯れている雲雀と。
ビーチボールを持っている長い黒髪の少年。
顔が半分ビーチボールで隠れてしまっていて、人相はよくわからない。
けれども綺麗な天使の輪が浮かぶサラサラの黒髪が印象的だ。
雲雀だって艶やかな黒髪だけれども、長さがある分この少年の美髪は目を引く。

「誰なんだろう・・・。従兄弟とかかな?」

友達であるはずがない。
いささか失礼な断定をしながら悩む綱吉に、再びばあやが声をかけてきた。

「懐かしいものが出てきましたよ」

そう言うばあやの手には写真に写っているビニールプール。

「まだ使えますよ。お入りになりますか?」

「えっ、でも・・・・」

入りたいけれど、厚かましくないだろうか、と綱吉は口ごもる。

「ほら、猫ちゃんもぐったりしてますし」

ばあやが指差す方を見れば、ナッツがだらしなく舌を出して荒い息を吐いていた。

「水着なら壱弥坊ちゃまのお古がありますから」

だからどうぞ、と勧められて。
綱吉はコクリと頷いた。


「ガウッ!」

「こらっ!暴れるなよ、ナッツ!」

きゃっきゃと水と戯れる1人と1匹。
雲雀家の庭の大きな木の下で水遊び。
ナッツは初めてのプールにおおはしゃぎで、水しぶきをたてて遊んでいる。

「早くヒバリさん帰ってこないかなぁ」

そしたら一緒に水遊びできるのに、とひとりごちた所で。

「沢田さん、休憩しませんか」

縁側にスイカを持った草壁が現れた。

「草壁さん!もう終わったんですか?」

草壁も雲雀と共に喧嘩に行ったのだ。

「ええ、あらかた。私は委員長に言われて先に戻ったんです」

沢田さんの様子を見るように、と。

「そうですか。すみません」

縁側に座って、早速スイカに手を伸ばす。
よく冷えたそれは、甘さも十分で乾いた喉を潤してくれた。

「あ!ナッツ!」

綱吉が休憩している間もプールで遊んでいたナッツが、プールに飛び込んでは大きな水しぶきをあげて水をまき散らしている。

「もー!水が無くなっちゃうじゃん」

「大丈夫ですよ。足してあげましょう」

草壁はそう言うと、ホースで水を足してくれた。

「ありがとうございます!」

草壁さんて本当に優しいなぁ、と思っていると。

「ツーナ!ツナヨシ!」

どこかから飛んできた1羽の黄色い小鳥。
ヒバードがやってきて、綱吉の持っていたスイカを啄ばむ。

「あはは。可愛いなぁ」

そうして仲良くスイカを分け合っていると。

「ヴゥゥ〜ッ!ガウッ!!」

やきもちを焼いたナッツが飛びかかってきた。

「うわっ!」

「ピーッ!」

驚いたヒバードは慌てて空に舞い上がったのだが。
ナッツはしつこくヒバードを追い掛け回した。

「やめろって!」

綱吉の静止の声などまるで無視。
逃げ惑うヒバードと、追うナッツ。
グルグルといつまでも続きそうだった追いかけっこだったのだけれど。

「あ、危ない!」

ヒバードがプールの方に逃げて、ナッツはそれを追う。
ヒバードばかりを目で追っていたナッツは目の前の壁に気付かない。
壁は壁でもブロック塀などではなく『草壁』に。

「キャンッ!」

「うおっ!?」

ヒバードに飛びかかろうとしたナッツは草壁の膝裏に激突してしまったのだ。
ナッツの頭突きが見事に膝裏に決まって。
膝カックン状態になってしまった草壁は、膝から崩れ落ちてしまう。
そして水を足していたプールにバチャーンと音をたてて倒れこんでしまった。

「わーっ!草壁さん!」

「だ、大丈夫です」

慌てて綱吉が駆け寄れば、草壁はムクリと起き上がる。

「・・・・え?」

綱吉は目の前の光景にポカンと口を開けてしまった。
だって草壁のトレードマークともいえるリーゼントが。
水に濡れたせいでセットが崩れ――現れたのはサラサラと美しい長い黒髪。

「ああ、久しぶりに見たね」

突然背後から聞こえた声に振り返れば雲雀が立っていた。

「久しぶり?」

「草壁は子供の頃、そうやって長い髪をおろしてたんだよ。後ろから見たら女の子みたいでね」

雲雀はニヤニヤと意地悪い笑いを浮かべながら、実に楽しそうに言った。

「どうしてそんな・・・」

「・・・・姉が・・・私の取柄は髪しかないから、と」

言いまして、とゴニョゴニョと草壁が説明する。
それによれば、草壁は子供の頃からガタイが良く老け顔で、しかも厳つい形相。
チャームポイントをアピールしなければ友達ができないのでは、と彼の姉が心配して、そして思い付いたのがサラサラの美髪を前面に押し出すこと。
そうして髪を伸ばしたはいいけれど。
振り返れば厳つい顔をした少年。
かえって気味悪がられて友達が出来なかったという。
・・・所詮子供の浅知恵だった。

「そ、それはお気の毒で・・・・」

「ええ・・・でも委員長が、落ち込む私に『君は自分の個性を理解していない』とおっしゃって。そしてリーゼントを薦めて下さったのです」

リーゼントは草壁にピタリとはまって。
以来、草壁には友達――というより舎弟がたくさん出来たという。

「すべて委員長のおかげなのです」

と草壁は嬉しそうに長い黒髪をかき上げる。

(えと・・・これっていい話・・・なんだよね?)

綱吉は首を傾げるけれど、草壁が嬉しそうだからいいか、と1人納得する。
そしてあの写真の少年が草壁だった事が分かって。
ちょっぴりやきもちを焼いてしまう。
だって2人の間には綱吉には割り込めない絆がある。
幼少時代からの思い出がある。
それが羨ましくてしょうがない。
でも、自分と雲雀との思い出はこれからたくさん作っていけばいいのだ。

「ヒバリさんも一緒にプール入りませんか?」

恐る恐る誘ってみれば。

「いいよ。入ろう」

綱吉のおねだりに、雲雀はすんなりと頷いてくれた。

夏はまだこれからが本番。
思い出はまだまだ増えそうだ。

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