other@

□サマーウォーズ
1ページ/1ページ

「次っ、お願いしますっ!」

大きな琥珀の瞳が箸を持つ自分の手元を真剣に凝視しているのに笑ってしまいそうになりながら、草壁は主へと目線を向けて主が小さく頷いたのを確認する。

「では行きます」

言うと同時に箸で掴んでいた白く長い物―――そうめんを離す。
そうめんは猛スピードでもって竹製の樋を滑り落ちていく。

「えいっ!」

綱吉がかけ声と共に箸をそうめんめがけて振り降ろしたけれど。
タイミングが合わずに箸は虚しく空振りしてそうめんはそのまま下へと滑って行き、あっさりと雲雀がキャッチした。

「なかなか食べられないね?綱吉」

ニヤリと笑いながら綱吉をからかう雲雀に草壁は苦笑する。

(本当に言動が小学生レベルでいらっしゃる・・・)

草壁の父は雲雀の父の秘書であり、母は雲雀の兄達の家庭教師だった。
その為、草壁と雲雀は主従関係なだけでなく幼なじみでもある。
雲雀は幼い頃から人間嫌いで人を寄せ付けない独特の雰囲気があって、恋人はおろか友達の1人もいない。
このまま心の許せる人間の1人もいないままの人生を送っていくのだろうか、と草壁が心を痛めていたそんな時。
好きな子が出来て、その子と付き合っていると告げられて草壁は本当に喜んだ。
相手が男でしかも『ダメツナ』で有名な沢田綱吉だったのにはビックリしたけれど、仲睦まじい2人を見ているうちに本人達が幸せならそれでよし、と思うようになった。

しかし。

何と言っても雲雀は今まで末っ子にベタ甘の親兄弟や絶対服従の使用人に囲まれて育ったゆえに。
コミュニケーション能力が極端に低い。
今日だって「綱吉がやりたいって言うから」と、庭で流しそうめんをやる事になったはいいが、雲雀が用意したそうめんを流す樋の傾斜角度がハンパない。
45度を超える角度に、そうめんの滑り落ちる速度もハンパなくて。
運動神経も反射神経も動体視力も皆無に等しい綱吉はさっきから1口も食べられていない。
その事を雲雀にからかわれて、元々丸い頬をさらにプクッと膨らませて拗ねている。
子供らしい拗ね方は綱吉らしくて本当に愛らしい。

(この顔が見たくて意地悪してらっしゃるんだろう)

可愛いから、好きだから意地悪する。
完全に小学校低学年男子の思考だ。
でも他人に関わる事を極端に嫌っていた頃に比べたら劇的な成長。
なんだかんだと綱吉を大事にしているし、表情が豊かになった。
今も角度を調整して欲しい、とキャンキャン子犬みたいに抗議する綱吉を見る目といったら、この15年で見たことないくらい嬉しそうだ。
咬み殺しがいのある奴を見つけた時も嬉しそうだけど、その時の目とは全然違う。

草壁はひねた息子の更生を喜ぶ母の如き心境でうんうんと頷いて。
空腹と悔しさでいよいよ泣きそうになっている綱吉と、やり過ぎたと思いつつも引き際が分からなくて焦り出した雲雀の仲裁をする為に。

2人に向かって1歩踏み出した草壁だった。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ