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□クリスマス・イブ
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広い部屋で一人きり。
モソモソとポップコーンを頬張りながらボンヤリとテレビ画面を見る。
この時期のテレビは特番ばかり。
ころころとチャンネルを変えてみるけれど、どれもこれもつまらない。
静かな室内にお笑い芸人の笑い声が虚しく響く。

「はぁ・・・・」

オレはこの日、何度目か分からないタメ息を吐いた。

今日はクリスマスイブ。
ヒバリさんとラブラブクリスマス――のはずだったのに。

終業式を終えて、散々な通知書もなんのその。
一通り母さんとリボーンのお説教を聞いて、冬休みの間きちんと勉強する約束をして。

「じゃあ、いってきます!」

ヒバリさんとの待ち合わせ場所に急いだ。
『並盛デパート前の広場の大きなクリスマスツリーの前で』
予約してたクリスマスケーキを受け取って、イルミネーションで煌めく街を散歩して。
ヒバリさんの家で小さなクリスマスパーティー。

嬉しくてニヤけそうになる頬を抓りながらクリスマスツリーの下でヒバリさんを待っていると。
後ろから肩を叩かれた。

「ヒバリさ・・・」

勢いよく振り返ればそこに居たのはヒバリさんじゃなくて。

「草壁さん・・・」

ヒバリさんの腹心の部下である草壁さんが立っていた。

「沢田さん・・・委員長は少し遅れます。ケーキを受け取ったら屋敷で待っていてくれと・・・」

走って来たのか草壁さんは息を切らしながら伝言を伝えてくれた。

「もしかしてヒバリさん・・・」

「はい。隣町との境でちょっと・・・」

また喧嘩か、とガッカリしたけどヒバリさんの事だからすぐに決着が着くだろう。
そう思って言われた通り、ヒバリさんの家で待ってたけれど。
待てど暮らせどヒバリさんは帰ってこない。
ヒバリさんが帰ってくるまで、とごはんも食べなかったけれど、9時を回った所でばあやさんに勧められて少しだけ食事を摂って。
今、こうしてヒバリさんの部屋で一人で帰りを待ってる。

あと30分で24日が終わる。
初めて2人で過ごすクリスマスイブだったのに・・・。

「ヒバリさん・・・オレと仕事とどっちが大事なんですか・・・?」

思わずジワリと涙が滲んで、女々しい独り言が零れてしまう。
だって折角のクリスマスだよ?
普通は恋人と過ごしたいはずじゃないの?
なのに喧嘩の方が大事だなんて。ヒバリさんは本当にオレの事好きなのかな?
そんな事を考えてたら、ますます落ち込んでしまって。

「帰ろっ・・・かな」

一人でいたくなくてオレは家に帰る事にして立ち上がった。
その時ポスリと床に落ちたビーズクッション。
膝と一緒に抱え込んでいた綺麗なラベンダー色のそれは、付き合い始めた頃にオレンジ色のとセットで揃えた物。
部屋で寛ぐ時用に、ってヒバリさんが買ってくれたんだ。
シックで高級感溢れるヒバリさんの部屋にはいささか不似合いなパステルカラー。
でも、実は他にも所々不似合いな物が置いてある。

ヒバードにそっくり、とオレが買って来た黄色い鳥のぬいぐるみ。
オレの好きなスナック菓子がいっぱい詰まったバスケット。
寒がりなオレの為に用意してくれたタータンチェックのフリースの膝掛け。
窓辺のポインセチアの鉢植えはオレがクリスマス気分を盛り上げようと置いた物。。
このテレビだってオレと付き合うようになってから買った物だし、クローゼットの中にはオレの着替えが入った専用の衣装ケースまである。

いつの間にかヒバリさんの部屋に溢れるオレの気配。

ヒバリさんは無駄が嫌いだし、自分の世界を大事にする人だ。
そこに侵入しようとする者は容赦なく咬み殺される。
そんなヒバリさんの世界に、オレは入る事を許されている。
彼の大事な空間に居る事を許されているのだ。

「・・・っ!」

オレはこんなに大切にされてるのに。

オレにだってヒバリさんとは別の次元で大切な物がある。
それとヒバリさんを比べる事なんて出来やしないのに。
ヒバリさんがどれだけこの並盛を大切に思っているか分かっていたはずなのに。
いつの間にこんなに欲張りになったんだろう。
オレだけを見ててほしい。なんて。
ヒバリさんの心配もしないで、オレってば身勝手すぎる。

「ヒバリさん・・・」

何時になってもいいから、無事でいてくれればそれでいい。
無事にここに帰って来てくれるならそれで。
サンタを信じる歳でも無いけれど、もしも本当にいるなら今年のプレゼントはヒバリさんがいい。
いつもみたいに無傷で「僕を誰だと思ってるのさ」って不敵に笑うヒバリさん。
それで一緒にクリスマスケーキを食べるんだ。

ギュウとラベンダー色のクッションを抱き締めてヒバリさんの帰りを待つ。
そうしてあと5分でイブが終わるというその時。

「綱吉!」

ヒバリさんが部屋に飛び込んできた。

「ごめん、綱吉。遅くなって・・・えっ?」

オレの望み通り、無傷のヒバリさん。
オレは嬉しくてヒバリさんに飛び付いた。

「綱吉・・・寂しかった?」

ヒバリさんが優しくオレの髪を梳いてくれる。
オレは本当に本当に嬉しくて。

「ヒバリさん、メリークリスマスです!」

満面の笑顔でそう言えば。

「メリークリスマス・・・」

ヒバリさんも優しい笑顔で応えてくれた。

その後二人で食べた苺と生クリームのクリスマスケーキは蕩けるくらい甘くって。
初めての恋人と過ごすクリスマスは。
苺みたいに甘酸っぱい、大切な思い出になった。

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