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□オブラート
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額にヒヤリとした手の感触を感じて雲雀は目を開けた。
ばあやの手かと思ったけれど、ボンヤリと霞んだ視界には淡い紅茶色。

「・・・綱吉?」

自分を心配げに覗き込んでいたのは雲雀の恋人だった。

「ひどい熱・・・・」

綱吉は雲雀の額に手を乗せたままへにゃりと眉を寄せる。

「学校・・・終わったのかい?もう夕方か・・・」

窓へ目を向ければオレンジ色の光が差し込んでいた。

「草壁さんにヒバリさんが熱を出したって聞いて・・・。大丈夫ですか?」

「まったく・・・風邪だなんて情けない」

雲雀は昨晩急に高熱を出して。
その熱は今朝になっても下がらず、学校を休んだのだ。

「でもインフルエンザじゃなくてよかったぁ」

綱吉はホッと安堵の息を吐いたけれど。

「うつるといけないから・・・あまり長居はしないほうがいい」

でも見舞いに来てくれたのは嬉しいよ、と弱々しく笑う雲雀に再び眉を寄せる。
上半身を起こすのも辛いのか、雲雀はベッドに横たわったまま。
心配で心配で思わず瞳が潤んだ。

「綱吉・・・」

そんな綱吉を見て雲雀が困ったように笑うから。
綱吉は慌てて目をコシコシと擦る。

「ヒバリさん!ばあやさんから新しい氷枕預かって来ましたから取り替えましょう!」

「うん。お願いしようか」

「はいっ」

できるだけ元気な声で返事をして、雲雀の頭の下から温くなった氷枕を引き抜いた。
するとポロリと落ちてきた小さな包み紙。

「ん?なにこれ」

拾い上げたそれを見てみれば薬包紙に包まれた粉薬。

「まさか・・・」

綱吉は何かに気付いたように顔を上げると、枕の下に手を突っ込む。

「ちょっ、綱吉・・・!」

雲雀が抵抗するけれど、熱のせいかいつもより動きが鈍いし力も弱々しい。
綱吉は素早く枕の下をまさぐって、目的の物を掴みだした。

「やっぱり・・・!ヒバリさん、薬飲んでないんですね!?」

綱吉の手の上には二包の粉薬。先ほどのと合わせて三包。
恐らく昨晩から一回も薬を飲んでいないのだろう。

「どうして薬を飲まないんですか?これじゃあ治らないですよ!」

理由を聞いても雲雀はムスリと黙ったまま。
綱吉が問い詰めると――雲雀はとうとう白状した。

「・・・・苦いんだ」

「はい?」

「それ漢方薬なんだけど・・・恐ろしく苦いんだよ」

その答えに綱吉はポカンとしてしまう。
だって『並盛の帝王』とか『歩く破壊兵器』とか言われている最強の風紀委員長。
そんな雲雀が苦い薬を飲むのが嫌だと拗ねているなんて。

「ワガママ言わないで下さい!絶対飲ませますからねっ」

小さな子供みたいで可愛い、と思わず緩みそうになる頬を引き締めて。
綱吉はビシリと言い切ると雲雀の部屋を出て行ってしまった。


そうして雲雀が再びうつらうつらとし始めた頃、綱吉は土鍋を持って戻ってきた。

「さあ、ばあやさんがおかゆを作ってくれましたよ。食欲はありますか?」

「ん・・・、少し」

だるそうに身体を起こした雲雀に、小皿に取り分けた玉子おかゆを渡す。
けれども。

「ヒバリさん?食べたくないんですか・・・?」

受け取ろうとしない雲雀に綱吉は首を傾げた。

「食べさせて」

ちゃんとフーフーして、と雲雀からのおねだり。
熱のせいで赤い頬に、潤んだ黒曜石の瞳。
それらがいつもよりも雲雀を幼く見せる。

(ああ、もう・・・!)

可愛い、可愛い、可愛い!
普段の冷静沈着な大人っぽさはどこへやら。
小さい子供みたいに甘えてくる姿に綱吉は撃沈した。

「フー、フー。はい、どうぞ」

「ん」

いつもの綱吉なら多少なりとも恥ずかしがって抵抗するのだけれど。
今日はせっせと雲雀の口におかゆを運んだ。
やがて土鍋はカラになり、いよいよ薬の時間。

「はい、ヒバリさん。あーん」

子供に言うみたいに口を開けさせようとするけれど、キュッと閉じたままの桜色の唇。

「大丈夫、苦くないですよ。だから、ね?」

口開けて下さい、と根気よくお願いすると渋々といった風に唇が開いた。
綱吉はチャンスとばかりに薄く開いた唇にスプーンを押しこんで。

「あれ?甘い・・・。ぶどうの味・・・?」

ゴクリと飲み込んだ雲雀が不思議そうな顔をする。

「これで薬を包み込んだんです」

綱吉が取り出したのは幼児が薬を飲むのに使う、ゼリー状のオブラート。
ぶどう味のそれは、以前熱を出したランボが薬を飲むのを嫌がった時に奈々が買って来た物で、さっき猛ダッシュで家から持ってきたのだ。

「ふぅん、今は便利な物があるね」

5歳児と同じ扱いをされてる事を知らない雲雀は感心したように呟く。

「さあ、もう寝て下さい」

「うん。色々ありがとう、綱吉」

「オレは元気なヒバリさんが好きなんです。だから・・・・」

コソッと雲雀の耳元で何か囁くと――綱吉は顔を赤くして部屋を飛び出して行った。
残された雲雀の耳が赤く染まったのは――。


『早く治していっぱいキスして下さいね』


―――熱のせいなんかじゃなかった。

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