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□指切り
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爪先にヒンヤリとした空気を感じてブルリと身ぶるいをひとつ。

「冷た・・・」

その冷たさに綱吉は目を覚ました。
足元に目をやれば温かい毛布と羽毛布団からはみ出た右足。
寒さの原因はそれだった。
折角気持ちよく眠っていたのに、と不機嫌になるけれど元はと言えば自分の寝相が悪いから。
モソモソと右足を布団に戻して、ふと横を見れば。
規則正しい寝息をたてて眠る雲雀の横顔。

年の瀬の12月30日。
綱吉は雲雀の家に恒例のお泊り。
本当は大晦日を二人で過ごしたかったけれど、雲雀は大晦日から元旦にかけてどうしても両親の元へと行かなくてはならなくて。
だから30日に今年最後のお泊りをして、明日――正確には今日のお昼には家に帰らなければならない。

雲雀の横顔を見ながら今年一年を振り返る。
ただの怖いだけの先輩だったのに。
自分の守護者になってくれて、更になんの運命の悪戯か、恋人同士になってたくさんの思い出を作った。
喧嘩した事すら今となっては良い思い出。

(本当に今でも信じられないな・・・)

こうしてひとつ布団で眠っていても、現実感がない。
何をやってもダメダメな自分と、綺麗でカッコよくて聡明な雲雀。
自分が雲雀を好きになるとは思ってなかったし、ましてや雲雀が自分を好きになってくれるなんて思ってもみなかった。
雲雀恭弥という人を知れば知るほど好きになる。
最近ではそれがちょっと怖いくらいに。

だってこんなに雲雀を好きになってしまっているのに。
雲雀が心変わりしてしまったら。
もう飽きたなんて言われたら。
綺麗な女の人の元に行ってしまったら。

考えただけで泣きそうになる。
怖くて怖くて震えが止まらない。

雲雀を信じられないわけじゃない。
自分に自信がないだけ。
だから少しずつでも雲雀と釣り合う人間になれるよう努力しているけれど。
綱吉が進む速度よりも遥かに早く雲雀は先を行ってしまう。

「こんなんじゃいつまで経っても追いつけないよ・・・」

傍にいるのに不安だし寂しい。
恋愛における気持ちの矛盾に綱吉の幼い心は押し潰されそうになる時がある。

「これからもオレを好きでいて下さいね・・・?」

だから眠る雲雀に祈るように言って。
雲雀の小指に自分の小指を絡める。
一方的な約束。
切ない指切り。
破られたって綱吉に雲雀を責める権利は無い。
単なる気休めでも構わないから雲雀と約束をしたかった。

ふいに絡めた小指にギュッと力が込められて。

「え?」

驚いて雲雀の顔を見れば、黒曜石の瞳が自分を見つめていた。

「あ、あの・・・」

慌てて小指を解こうとしたけれど、力を緩めてくれないから解けない。

「ヒバリさん・・・」

「そういう事は起きてる僕に言うべきじゃない?」

その声は起きたての声ではなくて。

「いつから起きてたんですかぁ・・・」

「あれだけ熱っぽく見つめられたら誰だって起きるよ」

君は鈍いから起きないだろうけど、と軽い嫌み。

「起こしてすみませんでしたっ!」

恥ずかしくて布団に潜り込む。それでも絡んだままの小指と小指。

「ほら、指切りしよう。綱吉」

「・・・破ったら針千本ですよ?」

それでもいいんですか?と恐る恐る見上げれば。

「絶対飲むような事にはならないから大丈夫」

自信満々な笑顔は綱吉の最も好きな雲雀の表情。

「じゃあ指切りげんまん・・・です」

小さな子供みたいに歌を歌って指切りを。


指切って離れた小指と小指の代わりに。
重なり合う唇と唇。
その温かさに――。
きっと約束は守られる。
そう信じられる綱吉だった。

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