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□CIOCCOLATO
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「えっ、自分にですか?」


草壁は綺麗に包装されリボンをかけられた包みを見て、パチクリと目を瞬かせた。

「ええと・・・これを、自分に?」

「そうです!あ、もしかしてご迷惑でしょうか・・・・」

へにゃりと歪んだ幼い眉に、草壁は慌てて首を振る。

「と、とんでもない!ただ・・・自分にまで戴けるとは思っていなかったもので。ありがたく頂戴します!」

草壁が包みを受け取ると、それを贈った少年――綱吉がホッとしたように笑った。



バレンタインを明日に控えた日曜日。
「チョコフォンデュやりましょう!」と、大きな荷物を抱えて綱吉が雲雀家にやって来たのは1時間程前。
雲雀を部屋に待たせて、ばあやに手伝ってもらいながら台所でチョコフォンデュの準備を始めて。
そんな甘い香りの漂う台所の前を通りがかった時、綱吉に呼び止められた。

そうして「草壁さん、コレどうぞ」と渡された包みの正体は、いわゆる『義理チョコ』という物だ。

「オレなんかから貰っても嬉しくないでしょうけど・・・。いつもお世話になっているので」

お礼です、とはにかむ綱吉は、男だろうと全然問題無いと思わせる愛らしさ。

「嬉しいですよ。ありがとうございます。ホワイトデーにはきちんとお返しをしますね」

そう言うと綱吉は勢いよく首を振って。

「とんでもないです!オレの気持ちなんですから気にしないで下さい!」

お返しなんていいんです、とはにかむ姿に草壁はかつてない衝撃を覚えた。


草壁だって今までに本命はともかく、義理チョコくらい貰った事はある。
ただしそれは、これだけガタイが良くなった今でも「哲ちゃん」と子供扱いする雲雀のばあやからと。
――2人の肉親から。

「どうせ今年もチョコ貰えないんでしょ?可哀想だから私が買ってあげたよ!あ、お返しは5倍返しでお願いね。兄貴!」

と、小悪魔な4歳下の妹と。

「あんたに恭君の色気の1万分の1でもあればねぇ・・・。義理チョコの1個も貰えないんじゃ可哀想だからあげるわ。お返しは10倍返しでいいわよ」

と、悪魔な4歳上の姉から。

雲雀三兄弟の家庭教師をしていた、美しく強気で厳格な母にそっくりな容姿と性格の草壁の姉妹。
厳めしい見た目の割には穏やかな性格と容姿を父から譲り受けた草壁は、この2人に全く頭が上がらない。
そんな高慢な2人から貰うチョコなど気が重いだけで。
バレンタインなんて憂鬱なだけのイベントだったのに。

あの悪魔達と比べて、この綱吉の純粋さといったら!
まさに天使。
眩しくて目が潰れそうだった。


「本当にありがとうございます!神棚に供えさせていただきますっ!」

「えええっ?ちゃ、ちゃんと食べて下さいよ!」

もう1度礼を言ってから綱吉と別れて、上機嫌で廊下を歩いていたのだけれど。
曲がり角を曲がった所でギクリと足が止まった。

「い、委員長・・・」

背中を冷たい汗が滑り落ちる。
草壁の主にして綱吉の恋人である雲雀が壁に寄り掛かっていた。

「ご機嫌だね?哲」

穏やかな声がかえって怖い。
雲雀は綱吉にベタ惚れ。おまけに極度のヤキモチ焼き。
綱吉から義理とは言えどもチョコを貰ったなんて知ったら・・・!

「あ、あの、あのですね・・・」

「動揺しすぎ。知ってるよ。綱吉からチョコ貰ったんだろう?」

「は、はい・・・」

「安心しなよ。取り上げたりしない。・・・・大事に食べてよね」

「委員長・・・」

すでに綱吉が雲雀に釘を刺していたらしくて。
不服そうな顔をしているけれど、綱吉からのチョコを食べる事を許してくれた。

「ありがとうございます!」

自分の部屋に戻って行く雲雀を何度も頭を下げて見送った。

それから道場に向かい、1度神棚にチョコを供えて拝んだ後。
ココアパウダーをたっぷり纏ったトリュフをパクリと食べれば、トロリと蕩ける幸せな甘さ。


ハッピーバレンタイン!


柄にも無くそう叫びそうになる草壁だった。

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