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□カレーライス
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あれ?もしかして・・・・
雲雀に夕食を食べていくよう勧めたのは奈々だった。
「雲雀君、カレーでよければ食べて行って?」
沢田家に遊びに来ていた雲雀に、ニコニコと勧める奈々。
それに雲雀がコクリと頷いたから。
綱吉の部屋で2人で食べる事になった。
今夜のメニューは奈々特製カレー。
市販のルーを使うのではなく、玉ねぎを飴色になるまで炒める所から作り始める手間のかかるもの。
前日の夜から仕込み始めて、朝からコトコトと煮込む。
基本的に具は豚肉、ニンジン、じゃがいもに玉ねぎ。
シンプルだけれど、こっくりとしたコクがあって、ピリリとスパイスが効いていて。
入れる具材や季節によってスパイスの配合を変えているらしく、美味しくはあるけれど平坦な味になりがちな市販品とは一味も二味も違う。
綱吉が世界一美味しいと思っているカレーには、やはり奈々手作りのピクルスとらっきょうが添えられている。
それからサニーレタスとトマトにフレンチドレッシングをかけたシンプルなサラダ。
トロトロの玉ねぎが美味しいオニオングラタンスープ。
階下から運んできたそれらの料理をテーブルに並べていると、奈々がガチャリとドアを開けて。
「ツッくん!温泉たまご忘れたでしょ」
「温泉たまご?サラダに乗せるのかい?」
雲雀が怪訝そうな顔をする。
「そうじゃないの。ツッくんはね、カレーが辛いからって温泉たまご乗せるのよねー。ほら、カレーとたまごが混ざってマイルドになるでしょ?」
「や、やめてよ!母さん、もういいから!」
赤面した綱吉は慌てて奈々を部屋から追いだした。
そうしてドアを閉めて、ぎくしゃくと振り返ってみれば。
「ふ〜ん、素直に甘口カレー食べたらいいんじゃない?」
ニヤニヤと雲雀がからかってきた。
「もう子供じゃないですもんっ」
ランボやイーピンと同じお子様カレーなんて食べられない、と綱吉は主張する。
まだ小さい2人の為に、奈々は辛さ控えめの甘口カレーも用意しているのだ。
「素直じゃないね」
「いいんです!さあ、冷めちゃいますよ。食べましょう」
強引に話を変えて、綱吉はカレーの上にパカリと温泉たまごを落とした。
「いただきます」
2人揃ってカレーを食べ始める。
「どうですか?カレー」
「うん。美味しいよ。さすが奈々だね」
奈々特製カレーは今日も美味しくて、食事は和やかに進んだのだけれど。
途中で綱吉はある事に気が付いた。
(あれ?もしかして・・・)
カレーの具は結構大きめ。
ニンジンもじゃがいももゴロゴロと大きいのだが。
雲雀の皿のニンジン率がやたらと高い気がする。
さりげなく観察してみれば、半分以上カレーを食べ進めた所で雲雀の眉間に皺が寄った。
ツンとニンジンをスプーンで突くと、小さくタメ息をひとつ。
(ヒバリさんてば、ニンジン嫌い?)
気付かないふりをして横目で様子を伺えば。
ニンジンとらっきょうを一緒にパクリ。
そしてレモンを絞った水で飲み込む。
今度はピクルスと一緒にパクリ。
そしてまた水でゴクリ。
(うわー!これ完全にそうだよ。ニンジン苦手なんだぁ)
そういえば雲雀の家で食べたきんぴらは、ごぼうだけでニンジンは入って無かった。
筑前煮とか肉じゃがにも。
(それにしてもベタな物嫌いなんだなぁ)
人の事を子供だと馬鹿に出来ないじゃないか、と綱吉は思う。
思わずクスリと笑ってしまった所を雲雀にみつかってしまった。
「・・・何が可笑しいのさ」
「ぴゃっ!」
ギロリと睨まれて震え上がる。
「べ、別に、ヒバリさんがニンジン嫌いなのが可笑しいなんて思ってないですよ!」
「思ってるだろう!」
「す、すみません〜!」
小さくなって謝る綱吉を見て、雲雀は大きくタメ息を吐くとプイッと綱吉から目を逸らした。
「・・・いいよ。もう」
「誰にだって苦手な物ありますよぅ。オレだってゴーヤとか苦手ですもん」
「うん・・・」
「今度母さんにキャロットケーキ作ってもらいましょう!」
「嫌いだって言ってるじゃないか!」
唇を尖らせて抗議する姿は駄々をこねる小さな子供。
綱吉の中の父性というか母性というか、がキュンキュンと刺激される。
「大丈夫です!」
実は綱吉は小さい頃偏食で。
食べられる物なんてほとんど無かった。
でも奈々が創意工夫して作ってくれた料理のおかげで、食べられる物が少しずつ増えて。
今ではほとんど好き嫌いが無い。
「オレがニンジン食べられるようになったのは、母さんのキャロットケーキのおかげなんです」
じっくりはちみつ漬けにしたニンジンを使ったキャロットケーキ。
あれなら雲雀だって。
「きっとニンジン好きになりますよ?」
ふんわりと子供を諭すように柔らかく微笑む綱吉に絆されて。
「・・・美味しくなかったら咬み殺すからね」
雲雀はケーキを食べる事を了承してしまった。
「オレが保証しますっ」
雲雀がニンジンを食べられるようになる日は――きっと、もうすぐ。