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□ガ・マ・ン
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ボキッ

音をたてて折れた鉛筆に軽く舌打ちして、雲雀は別の鉛筆を引き出しから出した。
机の上には芯の折れた鉛筆がゴロゴロと。
普段はそれほど筆圧が高いわけではないのだが。
どうにも今日は力が入ってしまって。
さっきから芯を折ってばかりいる。
けれども、それはしょうがないのだ。
あんな物を見せつけられてしまっては―――。

「次はこれかい?ホラ、あーん」

所望された物を開かれた唇に運ぶ白い指。

「うわっ、甘くていい匂い!これ、何て言うお菓子なんですか?」

「ヴィヨレット・キャンディ。スミレの砂糖漬けだよ」

バキッとまた鉛筆が折れる。
怒鳴りつけたいのを我慢するのに精一杯。
だってこれは恩返しだから。
だから、自分の恋人が他の男の膝の上に座っていても怒るわけにはいかないのだ――。


白蘭との戦いで真の姿を見せる事になったボンゴレリング。
その副産物なのか何なのか。
未来から帰って来た今でも、ちょくちょく初代達が姿を現すようになった。
獄寺、山本、了平、そして綱吉。
彼らはたまに初代に修行を見て貰っているらしかった。
子供嫌いだというランポウに、謎の多いD・スペードは姿を現さない。
同様に初代雲の守護者・アラウディもまた、雲雀の前に姿を現す事はなかったのだけれど。

二日前の夕刻。
応接室で1人書類に目を通していると、ふいにアラウディが姿を現した。

「何しに来たの。僕と戦う気になった?」

「相変わらずガキだね。その気はないよ」

アラウディに軽くあしらわれてムッとなる。
その気がないなら出て行け、と言おうと口を開きかけた時。

「デーチモが危ない」

「え?」

「デーチモに危険が迫っている」

デーチモとはつまりボンゴレ]世。雲雀の恋人、綱吉の事だ。

「・・・どういう事」

「この子が教えてくれた」

そう言ってアラウディが差し出した腕にバサリと舞い降りた一羽の鷹。

「デーチモが男達に絡まれてるのを見たって」

「っ!」

アラウディの話を最後まで聞かずに学校を飛び出した雲雀を、アラウディの鷹が先導するように飛ぶ。
そうして辿り着いた廃ビルの中で。
数人の男達に囲まれ、ガタガタと怯え震えていた綱吉を救出する事ができた。
間に合ったから良かったものの、間に合わずに綱吉がより傷付くような事態になっていたらと思うとゾッとする。

だから。
綱吉を家に送り届け、再び学校に戻った時、まだ応接室に留まっていたアラウディに。

「助かったよ・・・」

ありがとう、と雲雀にしては珍しく素直に礼を言った。

「じゃあ、謝礼を貰おうかな」

「謝礼?」

思わぬ要求に雲雀は目を見開く。

「僕が善意だけで君に教えてあげたとでも思ってるの。報酬はきっちりいただくよ」

食えない奴、とは思えども、綱吉を助ける事ができたのはアラウディのおかげ。
そう思って、渋々ながらも頷いた。

「じゃあ・・・・デーチモとデートさせな」

「何言ってるの!?」

突然の申し出に雲雀は声を荒げる。

「ケチケチしないでよ。ほんの1時間くらいでいいよ」

1時間だけと言われても、と押し黙る雲雀にアラウディはタメ息を吐いて。

「心配なら君も側にいればいい」

そう言われて頷くしかなかった―――。


そうして今。
雲雀の目の前で繰り広げられるアラウディと綱吉のラブラブっぷり。
最初の内は、人見知りしてモジモジしていた綱吉だったけれど、今ではすっかり打ち解けて。
膝の上に座ってアラウディが用意したお菓子を、アラウディに食べさせて貰っている。
その光景を先程からウンザリとする程見せつけられて。
でも、綱吉を助けて貰ったお礼なんだし、と葛藤のあまり力が入る。
そんなわけで、さっきからボキボキと鉛筆を折っているのだ。

落ち着け、と深呼吸する為に顔を上げたら。
アラウディが綱吉の頬にキスするのをバッチリ見てしまった。

「ちょっと!そこまで許してないよ!」

カッとなって思わず怒鳴ってしまったのだけれど。
綱吉がビクッと怯えたのが分かって、しまったと黙りこむ。

「そうやってすぐ怒るの止めなよ」

お前のせいだ!と言いたいけれど睨むだけにしておく。
その時、ピピピッと腕時計のアラームが鳴った。

「ほら、時間だ。その子を返しなよ!」

ズカズカと2人の前に進むと、アラウディからひったくるように綱吉を引き剥がした。

「十分堪能したよ。・・・僕のあの子はこういう事恥ずかしがってさせてくれないからさ」

拗ねたように呟くとアラウディは炎と共に消えてしまった。

「ヒバリさん!酷いですよ、あんな態度」

アラウディさんはオレを助けてくれたのに、とムウッとした顔で綱吉が怒っている。
直接君を助けたのは僕だ!と言いたいのをグッと我慢した。
今までこんなに言いたい事を我慢した事なんて1度も無い。

「もっと大人になって下さいね」

生意気な事を言う唇に。

言いたい事を我慢するようになっただけ大人になってる!

と、言う代わりに。
思い切り齧り付いてやった―――。

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