後輩×先輩1827

□猛獣づかいツナ!
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「おーい、ツナ!こっちこっち」

山本の声にトレイを持ってキョロキョロしてたオレは、学生でごった返す昼休みの学食で友人達の姿を見つける事ができた。
いそいそと彼らのいるテーブルに歩み寄ると、山本と獄寺君の他にも何人かクラスメイトがいた。

「お、『猛獣づかい』の登場だ!」

1人のクラスメイトがからかい口調で声をかけてくる。

「その呼び方止めてよ・・・」

オレは心底ウンザリしてタメ息を吐きながら席に着いた。

「オイ、沢田さんが止めろって仰ってるんだ。止めねぇと痛い目合わすぞ!」

獄寺君がドスをきかせた声で脅迫まがいの脅しをかける。
獄寺君は2年生になりたての頃、ひょんな事から懐かれてしまった。
彼が同じくこの学校に通っている姉・ビアンキに調理実習で作った料理の試食をしろと追いかけ回されてた時。
たまたま教室から出たオレとビアンキ先輩がぶつかって、料理は無残にも廊下にぶちまけられた。
本当に偶然で獄寺君を助けるつもりなんてなかったんだけど、彼に感謝されて懐かれてしまったんだ。
そんなにビアンキ先輩の料理ってマズイんだろうか・・・・。

「はは、獄寺おっかねー」

睨みをきかす獄寺君を爽やかな笑顔で笑い飛ばす山本。
背が高くて野球部のエース。
ファンクラブがあるくらい女子からの人気が高い。
1年生の時から同じクラスで気の合う友達だ。

「だってみんな言ってるぜ。もうツナは学校の有名人だしな!」

クラスメイトの言う通り。
チビで顔の作りも平平凡凡、頭の出来も悪く運動オンチ。
どちらかといえば地味で目立たないオレが、わずか1ヶ月足らずで全生徒に知られる有名人となってしまった。
その原因は学校一の有名人である雲雀恭弥にある。
容姿端麗、成績優秀にして傍若無人、凶暴凶悪の並盛学園の黒い王子様。
1つ年下の彼は入学してからわずか3日でこの学校を支配してしまった。

入学から3ヶ月近く経った今、彼は元々いた風紀委員長を引き摺り降ろし、彼に打ちのめされその強さに心酔してしまった不良連中を配下に置いて風紀委員長として君臨している。
そんな彼はオレが寮長を務める男子寮で、1人また1人と次々に同室になる1年生を叩きのめしていって。
とうとう2年生にまでその役は回ってきてしまった。
そうしてオレが2年生の被害者第1号となる・・・・はずだったのだが。
どういうわけか彼はオレを叩きのめしたりせず、むしろ紳士的な態度でなんだかんだともう1ヶ月も同室を続けている。
今までの最長記録が5日だったから、これはもう比べ物にならない大記録だ。

そんなわけで今もその記録を伸ばし続けているオレについた渾名が『猛獣づかいツナ』だ。
あの美しく凶暴凶悪な黒豹を手懐けたとして、オレは一躍有名人となってしまった。

ギャーギャーと騒いでいる獄寺君とクラスメイト達を尻目にオレは昼ごはんのカレーを食べながら、同居初日の事を思い出す。
あの日恭弥君はひどく甘い瞳と声でオレに「もう離さない」と囁いた。
女の子に言うみたいな口説き文句と甘い雰囲気にオレはパニックを起こして―――。

ボロボロ涙を零して泣いた。

初対面の後輩の前で情けないと思いながらも涙は止まらなくて。
そんなオレを見た恭弥君はギョッとした顔をした後、困ったような笑顔になってオレから離れた。

「すみません、綱吉先輩。先輩があまりにもガチガチに緊張してるから、からかってみたくなって・・・・」

「え・・・」

「緊張を解すつもりだったのに、まさか泣かれるとは・・・」

そう言うとハンカチで涙を拭ってくれて。
オレは恥ずかしくなって一気に顔が熱くなってしまった。

「や、やだなぁ、もう!恭弥君演技派だね」

なんてワケの分からない事を言いながら本棚の整理をする。
そりゃそうだよね。
オレも恭弥君も男なんだから口説くとか有り得ないのに。
本当、勘違いしちゃって恥ずかしい。
今思い出しても顔が熱くなってしまうくらいだ。

「どうした?ツナ、顔赤いぜ」

思考に沈んでいたら山本に顔を覗き込まれる。

「え?そう?」

思わず頬に手をやると確かに熱い。

「風邪ですか?沢田さん」

獄寺君が心配そうな顔をするから、慌てて首を振った。

「違うよ!今日のカレーなんだか辛かったから・・・」

そうかぁ?と首を傾げるクラスメイトを適当に流して残りのカレーをかっ込んだ。
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