後輩×先輩1827

□夏の始まり。
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『どうしてそんなに嫌がるのよ?ツッ君!!』

携帯電話の向こうから聞こえてくる大きな声に耳がキーンッと鳴った。

「声大き過ぎるよ!母さん!」

『あら、ごめんね〜。でもあんまりにもツッ君が冷たいから・・・』

今度は普通の大きさだったけど、拗ねたように言われてしまう。
まったく、いい歳をしていつまでも子供みたいだ。
電話の相手は父や双子の弟妹と共に海外赴任先のイタリアにいる母、奈々だった。
オレは1人だけ日本に残って、この全寮制の並盛学園の寮で暮らしている。

梅雨の合間の晴天。
チャンスとばかりにシーツを洗って寮の屋上に干しに来た所で携帯が鳴った。
それが母からの電話だった。

「冷たいワケじゃないよ。ただこっちで色々やりたい事があるんだってば」

『40日間もお休みはあるのよ?ツッ君部活入ってないんだし、半分くらいこっちに来れるでしょう?』

母が焦れたように言う。
母の電話の用件は夏休みの間、イタリアに来いというものだった。
少し前のオレだったら喜んで行ったと思うけど、今はそういうわけにはいかない。
オレにはどうしても夏休みを日本で過ごしたい理由があった。

『あー、さてはツッ君てば彼女が出来たのねー?』

鋭い母のカンにドキッとする。
正確には出来たのは『彼女』じゃないんだけどね・・・

『ツッ君はまだ高2なんだから!毎日イチャイチャしてもしもの事があったらどうするの!?』

そう言う自分は親父と大恋愛の末に高校卒業間近に妊娠発覚、卒業と同時に結婚。
18歳でオレを産んだくせに!

「彼女なんていないよ!母さんが心配するような事なんて何も無いから。
とにかくイタリアには行かないから。オレ、洗濯物干すからもう切るよ!」

『あ、ちょっと、ツッ君・・・!』

まだ何か言おうとしていた母さんを無視して電話を切る。
そりゃあオレだってチビ達にも会いたいし、地中海でバカンスを楽しみたい気持ちはある。
だけどカラッと眩しいシチリアの太陽よりも、うだるような蒸し暑い日本の夏の方が魅力的な時もあるのだ。
シーツを干して建物の中に入る。
直射日光から逃げる事ができてホッとした。
あまりにも強い日差しはすっかり夏のそれで、もしかしたらこのまま梅雨明けかもなんて考えながら階段を下りる。
2階まで下りて廊下の突き当たりにある自分の部屋の扉を開けた。

「おかえりなさい」

ベッドを背凭れにして床に腰掛け、読んでいた本から顔を上げて同室の恭弥君が出迎えてくれた。
オレがイタリアで過ごす夏を蹴ってまで日本にいたい理由。
それが彼だった。
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