後輩×先輩1827
□はじめて。
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ホームに降り立つと途端に香ってくる潮の香り。
海にやって来ましたって感じ。
他にもオレ達と同じように水族館へ向かう人や、海水浴に行く人で混みあってる。
「こっちですよ」
人に押されてフラフラしてるオレの手を恭弥君がキュッと握ってきた。
ドキッとしたけどされるがまま恭弥君に手を引かれて江ノ島水族館へ向かった。
「すご〜い!」
目の前に広がるのは魚達の競演。
巨大な水槽の中には実際に相模湾を泳いでいる魚達が優雅に泳ぐ。
圧巻なのは何百、何千という銀色に光るマイワシの群れ。
サワラ、カンパチ、アジなど食べた事はあるけど、ありのままの姿をあまり見た事の無い魚達。
エイやシノノメサカタザメなどが大きな体で悠々と泳ぐ。
下を見れば岩の陰にイセエビがいたり、ビックリするくらい大きなタカアシガニがいたり。
何時間見てても飽きないんじゃないかって言うくらいの迫力と美しさ。
「綺麗だね〜。すごくキラキラしてる」
「そうですね。自然のままの美しさだ」
大迫力の大水槽を後にして、館内をゆっくり見て回ったけど恭弥君が1番気に入ったのはクラゲのコーナーらしい。
半ドーム状の空間に色々な種類のクラゲが展示されてて幻想的だ。
長い触手をたなびかせてフワフワと泳ぐクラゲもいれば、小さな体でプカリプカリと漂うクラゲもいて。
恭弥君があまりにも真剣にクラゲを見てるからちょっと笑ってしまった。
だって学校にいる時の恭弥君のイメージってシャチとかホオジロザメとか。
獰猛な感じだもんね。
――オレには優しいけど。
なんて1人で惚気てニヤニヤしてたら側にいた小さな子供に変な顔をされてしまった。
・・・今日はやたらと人に笑われる日だ。
十分にクラゲを堪能した後、イルカのショーを見た。
大ジャンプをしたイルカの着水で上がった水しぶきを思いっきり被るというお約束もバッチリ体験して大満足。
帰りにお土産コーナーに立ち寄って獄寺君達へのお土産に深海まんじゅうなる物を買った。
ふと目に止まった黄色いストラップ。
なんだろうと見てみれば、『カメロンパンストラップ』というカメの甲羅がメロンパンになってる物。
「か、可愛い・・・」
愛らしい目がチョコンと付いてて本当に可愛い。
「欲しいんですか?」
ジッ見てたら恭弥君に声をかけられた。
「え、えっと・・・」
可愛いけど高2男子が持つ物としてどうだろう・・・。
迷ってたら恭弥君がヒョイとカメロンパンストラップを取ってレジに行ってしまった。
「恭弥君!?」
会計を済ませて外に出る。
「どうぞ」
「え」
恭弥君が今買ったばかりのストラップを差し出してきた。
「欲しかったんですよね?」
だからどうぞ、って。
「あ、じゃあお金・・・」
「いいんですよ。プレゼントです」
「ありがとう・・・」
うわー、めちゃくちゃ嬉しい。
受け取ってすぐに自分の携帯に着けた。
「大事にするね」
そう言うと恭弥君も嬉しそうに微笑んでくれた。
そこで急にこれはデートなんだって意識してしまう。
今まで水族館が楽しみでしょうがなかったから・・・
すっかり忘れてたけど、これってファーストキス仕切り直しの旅行だった。
「さて、鎌倉に向かいましょうか」
恭弥君の言葉にコクリと頷く。
ドキドキしすぎて恭弥君の顔をまともに見る事ができなかった――。