後輩×先輩1827

□夏の終わり。
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恭弥君に嫌われたくない。
だからとにかく熱が収まるまで、なるべく萎える事を必死に想像した。
むさ苦しい男子柔道部の部室の匂いとか、ビアンキ先輩の料理の味とか。
ついでに今年の正月、帰国した親父に無精ひげだらけの顔で頬ずりされた時の事も思い出した。
だんだん気持ち悪くなってきて、いい具合に落ち着いてホッとする。
本当は抜いちゃえば早いんだろうけど、元々淡泊な方らしくてあんまり自分でする事ってないし。
恭弥君をおかずにするのはなんか違うし。
かといって憧れの美少女、京子ちゃんをおかずにするなんて申し訳なさすぎる。

すっかり萎えたのを確認して、オレはトイレから部屋に向かった。
あんまり遅くなったら恭弥君に怪しまれてしまう。
・・・といってももう十分怪しいけれど。
そっと部屋のドアを開けると、不機嫌そうな恭弥君が見える。
オレが部屋に入ると口を開きかけたから。

「おやすみっ!」

恭弥君が言葉を発する前にベッドに潜り込んで、頭から布団を被った。
何か言いたそうな雰囲気だったけど、しばらくするとタメ息と共に「おやすみなさい」と言ってベッドに入ったようだった。
なんだか避けるみたいになってしまって申し訳ない。
でもやっぱり恭弥君には知られたくないし、嫌われたくないんだ。
恭弥君はオレに欲情なんて――するわけないか。
いや、欲情って!男同士でそんなの。
頭の中で1人ノリツッコミして。
結局眠れたのは夜中の2時を過ぎた頃だった―――。


あれから5日。
ようやく本を読み終えて感想文を提出した。
自分なりに感じた事をたどたどしく綴った感想文。
また殴られるんじゃないかと、ビクビクしながらリボ山に渡すとすぐさま目を通して。

「ふん。やれば出来るじゃねーか。これからもきちんと自分の力でやれよ」

ポスンッと作文用紙で頭を叩かれる。
今まで勉強で誉められた事なんて今までなかったオレは、すっかり浮かれてしまった。
ウキウキと放課後の廊下を歩いていたんだけど。

「何へらへらしてんだ?女の子なら可愛いけど、男がニヤニヤしてても気持ちわりーだけなんだよ!」

突然かけられた失礼なセリフ。

「シャ〜マ〜ル〜」

振り返れば白衣をだらしなく着ている保健医のシャマルが立ってた。
男だってだけでもガッカリなのに、無精ひげだらけでむさ苦しいこの保健医。
女の子が大好きで、男子生徒は保健室に入れてもくれない。
教師という立場でありながら堂々と男女差別をするこの保健医は、オレの親父の悪友。
そのせいか男であるオレにもたまにちょっかいを出してくるんだ。

「やっと感想文を書き終わって、いい気分なのに!邪魔すんなよな」

昔から顔見知りなせいで、ついついこんな言い方をしてしまう。

「なんだ。そんな理由か。俺はてっきり雲雀ちゃんと上手くいってるからご機嫌なんだと思ったぜ」

ニヤニヤしながらシャマルが言った言葉に、オレは固まってしまう。
今、聞き捨てならない名前が出てきた。

「え・・・雲雀って・・・・」

オレと恭弥君の関係は誰にも知られてはいけない2人だけの秘密。
なのに何故。

「付き合ってんだろ?お前ら」

「んなーーーっ!?」

なんで知ってるんだ。
まさか学校中の人間が知ってるとか?
パニックを起こして目をぐるぐるさせてるオレを見て、シャマルは1つタメ息を吐くとオレの腕を引っ張る。

「来い」

シャマルに引っ張られるまま、オレは保健室に入った。
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