mainA

□並盛温泉物語
2ページ/16ページ

『HOTEL VONGOLA』はイタリアを本拠地としたホテルグループ。
ハワイにドバイにニースにモルディブに・・・と、世界の名立たるリゾート地、またはニューヨークなどの大きなビジネス街にある高級ホテルだ。
日本には六本木にあって、家光はそこに勤めていて。
綱吉は詳しくは知らないけれどそこそこの地位にいるらしく、世界中を飛び回っていて、小さい頃からあまり家に居なかった。

「並盛にも出来たんだね。でも何て言うか・・・正直、不釣り合いなんじゃないの?」

世界のリゾート地などにある高級ホテルがどうして日本の温泉街に、と綱吉は疑問に思う。
最近人気とは言っても、さほど大きくない温泉街。
確かに海も山も綺麗だけれど。
他のリゾート地に比べたら、だいぶ劣ってしまうのでは・・・と。

「ああ、先月オープンしたばかりだ。この並盛は『HOTEL VONGOLA』の新しいタイプのホテルなんだ」

「新しいタイプ?」

「いわゆるアラサーやアラフォーと呼ばれる世代を狙って、ワンランク上の旅をっていうのがコンセプトだ。
高級過ぎず、けれども普段の日常とは離れたゆったりと寛げる癒しの空間ってな」

「へえー?」

そう言われても綱吉にはいまいちピンとこない。
それと並盛とどういう関係が?と首を傾げる。

「都心から交通の便が良く、そして近い。豊かな自然に質の良い温泉。
仕事や人間関係に疲れたサラリーマンやOLが、週末に仕事を終えてから癒しを求めてふらりと行かれる」

「なるほどね〜」

綱吉は素直にうんうんと相槌を打つ。

「海外にあるリゾートホテルタイプよりも値段をかなり抑えてあるし、各プランも用意してる。
女性向けにエステや岩盤浴コース、男性向けに地魚食べ放題、地酒飲み放題コースなんてのもな」

「へえ〜」

「地中海風のホテルで贅沢なひと時を・・・・ってこった」

家光は自慢げにふんぞり返るけれど。

「で・・・・それとオレ達が今日からここで暮らすのとどういう関係が・・・」

結局の所、それが分からない。

「うーん・・・、まあ、なんだ。・・・お前にここで修行して貰う為・・・かな?」

ゴニョゴニョと言いながら、可愛らしく首を傾げる。

「キモイッ!オッサンがやっても可愛くないよ!っていうか、修行って何!?」

「デカイ声出すな!あと、キモイって酷い!ツナはお父さんが嫌いなのか?」

「そういう問題じゃないよ!質問に答えてよ」

「だーかーらー!お前が『HOTEL VONGOLA』十代目オーナー候補に選ばれたんだよ!」

「・・・・・は?」

綱吉はポカンと家光を見つめる。
オーナーってなんだ、と必死に頭の中を整理しようとするけれど。
突飛な話過ぎて頭が動かない。

「まあ、落ち着け。九代目はイタリア人なんだが、もう高齢でな。そろそろ後継者を・・・という話になったんだ。
ところが十代目候補だった甥達が皆、亡くなってしまって・・・。九代目にも息子がいるんだが、そいつが超が付く問題児でなぁ。
それでお前に白羽の矢が立ったというわけだ」

「というわけだ・・・って言われても!」

全然意味分かんない、と綱吉は困惑する。
いくらそれなりの地位にいるからといって、単なる一従業員の息子である自分がどうしてオーナー候補に挙がるのかが全く分からない。

「だってお前は初代オーナーの直系だもの」

さらりと言われて綱吉は固まってしまう。

「え?直系・・・?」

「あれ?言った事無かったっけ?初代オーナーであるジョットは、早々に引退して日本で隠居生活を送ったんだ。
お前のじいさんのじいさんの、そのまたじいさんの・・・まあ、つまり先祖だ」

「ええーっ!そうだったの!?」

「まあ、とにかくそんなわけでお前にはここでホテルマンとしての修行をして貰う事になるから。ヨロシク☆」

そう言うと家光は従業員に呼ばれて、ポカンとしたままの綱吉を残して去ってしまったのだった―――。


あの衝撃の1日を思い出して綱吉は今度こそ深いタメ息を吐く。
結局、抵抗も虚しく綱吉はホテルマンとしての修行を始める事になってしまった。
一流のホテルマンだというリボーンが家庭教師になって、それこそ血と汗と涙の修行の日々。
そうして今も、2週間後に控えた『Festa di fragola』――つまり『春の苺フェア』に向けて、紅茶の淹れ方の特訓中なのである。
苺タルトに苺パフェに苺クレープ。苺のフレッシュジュース、苺のジェラート、焼きたてのスコーンに自家製の苺ジャム、などなど。
その名の通り、苺を使ったデザート食べ放題プラン。
綱吉もウエイターとして働く事になっていて、その為の修行なのだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ