刹那、涙に死色の紅桜
□刹那、涙に死色の紅桜
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地面を擦る靴音が聞こえた後、涙の名を呼ぶ声が聞こえた。
「涙、」
見上げれば予想通り鬼道がいた。
「涙じゃない」
「いや、涙だ」
鬼道は涙の直ぐ傍にしゃがみ込み、涙の瞳を見た。
涙はすぐに視線を反らした。
「涙、こっちを見ろ」
だが視線を向けようとは思えなかった。
「涙」
もう一度名前を呼ばれ、無理矢理そちらの方に向かされる。
ゆっくりと近付く顔。
一瞬呼吸が止まる。
「弱ってる所に付け込まないで」
触れる前に一度止まる唇。
「ダメか?」
ダメかと聞かれて断らない私を鬼道は知っている。
「別に...」
その言葉を鬼道は了承と受け取り、唇に触れた。
「エッチな事して私を慰めてくれるの?」
皮肉と冗談を混ぜて言えば案外向こうは乗り気で。
「お前が望むなら...」
もう一度合わさった唇に本来こんなことがあってはならない事を思い出した。
涙は手に付いた土が鬼道に付かない様、手首で鬼道の身体を押し返した。
「どうした?」
「...手洗いたい」
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