薔薇の秘め事
□薔薇の秘め事
1ページ/5ページ
葵は奈良鹿公園の中にいた。
勢いに任せて出てきたのはかっこよかったが、戻るに戻れない。
葵はその場に座り込み、流れる小川を眺めた。
「そんな浅い川じゃ溺死なんて出来ないよ。」
気配もなく後ろから掛けられた声に驚き振り返った。
木の傍に一人の少年が立っていた。
「やぁ、葵。久しぶり。」
朱色の髪、真意の掴めないピーコックグリーンの瞳、不健康そうな肌。
どれも知っている。
『ぇ、ヒロト...?』
ポツリと小さく呟かれた声はヒロトに届いたらしく。
「うん、そうだよ。」
葵は立ち上がり、ヒロトに駆け寄った。
『ヒロト!』
そのまま葵はヒロトに抱き付いた。
「葵...?」
葵の顔は見えない。
『10秒だけ、』
耳元で聞こえた声。
『10秒だけ、このまま...。』
ヒロトは空いていた両手で葵を抱き締め返した。
「うん、分かった。」
抱き締め返された事に葵は安心した。
圧迫によって交感神経系を抑えられているのだろうか。
.