刹那、涙に死色の紅桜
□刹那、涙に死色の紅桜
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いつの間にか近付いてきた鬼道がすぐ目の前にいた。
触れるだけのキス。
涙は驚き目を見開いた。
そして直ぐに鬼道から距離をとろうとしたが、それも阻まれた。
「お前は何処にも行くな、桜」
まるで悲願するように言うものだから逆らえなかった。
「分かった」
私も甘くなったものだ。
「なら続き、していいか」
その言葉を聞いた瞬間に、鬼道を突き飛ばした(突き飛ばすなんて力はなく寧ろ押し返すと言う方が近かった)。
「ふざけないで」
涙は立ち上がり、棚の上に放置された布巾に手を伸ばした。
背中に温度を感じた。
鬼道が涙の腰に腕を回し、優しく抱き締めていた。
「やだ、離してっ...」
鬼道の鼻腔に涙の香りが擽る。
「離さない」
初めての時と違った優しさに、胸が熱くなる。
これ以上好きになんてなりたくない。
今更戻る事なんて出来ないのだから、進まなければいい。
離れても恋は恋。
嫌いになんてなれない。
ならば私を失望させて。
そしたらきっと嫌いになれるから。
好きなのをやめられるから。
恋は恋のまま
(染めた頬は貴方の所為でだよ、)
(別に冷まさなくてもいいけど。)
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