刹那、涙に死色の紅桜
□刹那、涙に死色の紅桜
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涙は鬼道を置いて、少し早歩きで刹那と二人で街を歩いていた。
「涙ちゃん先輩?」
涙はハッと我に返り、足を止めて刹那をゆっくりと見た。
「何?刹那ちゃん?」
涙はつい感情的になりすぎたのを恥ながら、刹那が失望してないかと恐れた。
「あの人は...、」
刹那は一度だけ視線を来た道の方へやった。
あの人と代名詞で言われても私達を追い越したサラリーマンも、楽しそうに二人ではしゃぎながら歩く女子高生も、迷子になり泣く子供も、それを見付けた母親も、偶然見掛けた嫌なクラスメイトも、みんなあの人とくくる事が出来た。
だが涙には刹那の言うあの人が鬼道の事だと限定できた。
「あの人は、涙ちゃん先輩とどういう関係なの?もしも恋人なら、」
刹那は悲しそうな、今にも泣き出しそうな顔で言った。
「恋人じゃない。ただのバイト先のオーナーの息子だよ」
涙は刹那がその先の言葉を言う前に言葉を放った。
間違っていないはずなのに涙は罪悪感に似た苦しい感情を感じた。
「...とてもそんな関係には見えなかったけど?」
ああ、そう言えば刹那ちゃんは洞察力に長けていたなと1年という長くも短くもとれる付き合いの中で知ったのを思い出した。
「恋する瞳は瞳孔が揺れるんだよ」
刹那はふわりと笑った。
純粋な程に美しい君。
とても可愛いと思った。
「バレないよう気を付けてね。涙ちゃん先輩が退学なんて嫌だから」
涙は刹那に気付かれてると確信し、ただ力なく笑うしか出来なかった。
隠したって無駄だと分かっているが、隠し通さなければ。
「買い物、行こっか」
涙は肯定も否定もせず、ただ一言続きを促した。
刹那は問い詰めようともせず、ただ黙って頷いた。
そこに刹那の優しさを感じた。
やっぱり刹那はいい子だ。
そういうところが堪らなく好きだ。
刹那ちゃんが友達で良かったと思う。
恋する瞳
(あの人、)
(本気で先輩に恋してるよ。)
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