刹那、涙に死色の紅桜

□刹那、涙に死色の紅桜
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涙は階段をかけ上がっていた。


原因は当然鬼道だ。


頬が熱い。


触れた唇の感触をまだ覚えている。


いや、ホントは鬼道に触れられた全てを覚えている。


初めてのセックスの激しくて、心が凍てつくような恐怖。


先日のもどかしくて、切なくて、悲しいセックスも。


後ろから抱き締められた腕の温もりも。


鬼道の行動一つ一つが、私の心を乱す。


それを認めたくはない。


前をよくみてない所為で人がいたのに気付けなくて、ぶつかってしまった。


ぶつかった相手の身体が傾く。


涙は反射的にぶつかった相手を支えた。


「ごめんなさい、大丈夫...、」


そしてその顔を見て直ぐに無視すれば良かったと思った。


いや、最早胸ぐらを掴み、階段から突き落とし、肺を圧迫するように踏み潰して何故両親を殺したのかと問いただしてやりたいとさえ思った。


涙は殺気を抑え、殺人衝動に囚われないように笑顔を取り繕った。


だが殺したい程憎んでいる相手に笑顔を向けられる程涙は器用な人間でも、心優しく寛容な人間ではなかった。


寄せた涙の眉がまるで本気で自分を心配しているように彼女は思えた。


互いに揺れる瞳孔。


「ぁ、ありがとう」


頬に朱を滲ませた彼女はそう言った。



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