刹那、涙に死色の紅桜
□刹那、涙に死色の紅桜
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忘れられない日だ。
それは決していい意味でもロマンスでもなんでもない。
嫌な記憶だ。
忘れたくても忘れられない記憶だ。
忘れられない汗の香りと独特の青臭い匂い。
熱い身体、薄く冷たい唇。
何度も繰り返しその唇から出た吐息の感覚。
まるですがり付いてもがくような剥き出しの熱情。
それが愛だとするならば等と馬鹿げた思考に陥る。
くだらないと言葉を発する事なく自分に言い聞かせた。
初めてのセックスがレイプだとか笑えない。
今までに経験はないが人生において最悪のセックスになるだろう。
「涙ちゃん先輩?」
名前を呼ばれ、ハッと意識を浮上させた。
「大丈夫?」
友人であり、一個下の後輩が涙の顔を覗き込む。
「大丈夫だよ、刹那ちゃん」
涙はにこりと笑みを浮かべた。
「涙ちゃん先輩の大丈夫が一番大丈夫に聞こえないよ?」
刹那ちゃんは苦笑した。
刹那ちゃん...神無月刹那は涙の数少ない友人であり、一個下の後輩である。
涙ちゃん先輩なんて私を呼ぶのは刹那ちゃんだけである。
先輩はやめて欲しいと言ったがやめてはくれなく、敬語と名字呼びだけがやめられ、なんだか不恰好な関係になってしまった。
先輩なんて呼ばれる程綺麗な生き方を、私はしてない。
「それより香ちゃんはいいの?」
香はと言うのは刹那の親友である。
私もいつか信じあえる友人が欲しいと思う。
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