刹那、涙に死色の紅桜
□刹那、涙に死色の紅桜
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防弾チョッキを来ていてもいいように。
涙は撃鉄を上げて銃を握り直した。
鬼道は一瞬だけ目を見開くとスッと紅の瞳を細めた。
驚く程、鬼道は冷静であった。
真っ直ぐにこちらを見据えている鬼道有人。
まるで己の死を客観的に見るように、まるで引き金が引かれるのを待っているようだった。
引き金がなかなか引けない。
指が震える。
「どうした、俺を殺すんじゃなかったのか?それともセックスしに来たのか?」
挑発的な言葉。
だけど怒りはいくら待っても沸いて来ずに、湧いて出てくるのは涙だけ。
「どうしてっ!?どうして私はっ!」
殺せないの?
口から出た悲痛な言葉。
多くの死を見届けてきたのに、貴方だけは、ダメなんだ。
鬼道は突きつけられた銃ですら愛しいと思った。
辛うじて確認できた時間はあと残り僅かだった。
ほんの数十秒。
時間はもうなかった。
拳銃を一度握り直す。
殺さなきゃ、殺すんだ。
「好きだ」
たった一言言われた言葉に動揺し、涙の決断を鈍らせた。
あと10秒しかない。
数字がどんどん減っていく。
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