刹那、涙に死色の紅桜

□刹那、涙に死色の紅桜
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「いいからここで着替えろ」


「鬼道が出ていってくれるならね」


涙は言葉を付け足しておく。


「なぜ俺が部屋を出なければならない?ここは俺の部屋だ。それに鬼道じゃなくて有人様だろう?」


ニヤリと意地悪そうに鬼道は笑みを浮かべた。


鬼道の言っている事は確かに正論だが、受け入れ難い。


「うわ、出たよ俺様」


涙は露骨に嫌そうな顔をした。


「命令が聞けないのか、桜」


「横暴の次は職権乱用ですか」


「なんなら俺が着せてヤろうか」


なんか言葉のニュアンスに違和感を感じたが敢えて触れない。


触れれば調子に乗るからだ。


「鬼道に...、」


涙の言葉を遮り、鬼道が訂正を求めてきた。


「有人様」


ああ、メイド服着る前から上司と部下の関係なのね。


涙は全くわがままな坊っちゃんですこと、と内心愚痴る。


早くもこの仕事を辞めたくなった瞬間である。


「有人様は服を着せるより脱がせる方が得意でしょ」


涙は皮肉を言ってやる。


「試してみるか?」


「遠慮させていただきます」


涙はきっぱりと断った。


ジョークが通じないと言うか、都合のいいように変換されてる。


この場合は相手にしないのが一番いいと知っている。


涙はメイド服を持ち直し、鬼道の部屋を出ようとしたが、鬼道が涙を呼び止めた。


「どこに行く?」


「お手洗いに」


涙は鬼道に首だけ向けて言うと部屋を出た。


お手洗いなんて嘘だし、それが嘘だと鬼道にバレている事を涙はわかっていた。


勿論鬼道は涙がお手洗いに行くのを引き留める理由など持ち合わせていなかった。





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