薔薇の秘め事
□薔薇の秘め事
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豪炎寺も葵も驚いた。
豪炎寺は赤いカーネーションの入った花瓶を持ちながらベッドの上の夕香を見れば、うっすらと豪炎寺と同じ色の瞳が見えた。
「お兄ちゃん。」
豪炎寺の手の花瓶から水が零れ落ち、花瓶がするりと落下した。
割れるかと思った花瓶も割れなかった。
カランと高い音と同時に豪炎寺は夕香の傍に来た。
豪炎寺は夕香の傍まで寄ると、夕香の頭を優しく撫でてあげた。
妹の前では泣かまいと唇をかみしめる豪炎寺だが、夕香が瞳に涙を浮かべ微笑むと、今だけ泣く事を無言で許されたような気がした。
豪炎寺の瞳にも涙が浮かんでいた。
「夕香。お兄ちゃん、勝ったよ...。」
彼が涙するのを初めて見た。
とても美しいと思えた。
いつでも強くあろうとする彼が涙するものだから思わず自分に心を許したと錯覚してしまう。
『良かったね、豪炎寺君。』
葵が紫水晶の瞳を細めれば、豪炎寺は慌てて涙を拭いた。
その仕草は男が女に涙を見せまいと恥じてする行動とも取れるが、その行動まで少し時間がかかっていたようで強いて言うならばその行動が葵の存在を忘れてしまっていたように見えた。
彼の中の私の存在は目前の奇跡よりも小さい事くらい分かっていた。
子供服みたいに直ぐに小さくなってしまう私の存在
(私の中の貴方程貴方の中の私の存在は、)
(まだまだ大きくない事も分かってるけれど。)
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