刹那、涙に死色の紅桜
□刹那、涙に死色の紅桜
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鬼道の家の前にはモデルのような若い女が立っていた。
女はこちらに気付くと走ってやって来た。
「やぁ、アステリスク」
涙は彼女...いや、実際は女装した男なのだから彼をアステリスクと呼んだ。
「桜!大丈夫!?」
「あーうん、帰りを狙われてね」
涙はアステリスクを見て苦笑した。
そして言葉を続けた。
「でも手掛かりはある」
涙はポケットからティッシュでくるんだ薬莢をアステリスクに渡した。
「犯人が残して行ったの。調べてもらえる?」
涙は医療具らしき箱を空いている手で持ったが、思った通り重さがあり、肩に響いて傷んだ。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとう、アステリスク」
涙は弱々しく笑顔を作ると鬼道にドアを開けてもらい、先に入った。
鬼道も家に入ろうとした時、アステリスクはおい、と声をかけた。
越えるはずだった家の敷居の一歩手前で止まり、鬼道はアステリスクを見た。
「お前はなんだ?」
アステリスクは鬼道を品定めするようにジロジロと見ながら言った。
鬼道は思わずは?とマヌケな声を漏らした。
「なんで桜がお前なんかの傍にいるのかわからないわ」
アステリスクは不思議そうに、恨めしそうに、悔しそうな、形容しにくい顔をした。
鬼道もまた顔を歪めた。
「彼女を傷付けているのはお前なのに。お前といても桜は幸せにはなれないのに...、」
アステリスクの言葉に少し胸に痛みを感じたが、自分の方が涙を知っていると、本名を知っていると気付き、勝ったような気分になった。
優越感と言うやつだ。
「殺し屋をしていた時よりはマシだ」
「自惚れるなよ、チビ。ちょっと心を許されてるからって、本名を知っているのはお前だけじゃないんだよ?」
アステリスクは鬼道をキッと睨み、踵を返した。
「涙が愛しているのはお前じゃない、お前の金だ」
去り際に吐き捨てられた言葉が耳に残る。
天才と星
(例えるなら、)
(そう、優越感と嫉妬心。)
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