刹那、涙に死色の紅桜

□刹那、涙に死色の紅桜
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耳元で告げられた声に目を開けた。


意外にも鬼道は何もしてこなかった。


何かされるのは困るのだが…。


てっきりパイタッチくらいは覚悟していたのだが…。


別に期待とかじゃない。


案外優しい男だと、涙は思った。


「ありがと」


「それだけか?」


「はい?」


振り返り、鬼道を見れば唇に口付け。


「ちょ、まっ、」


涙が左手を思わず床に付けば、傷に響き、顔が歪む。


やっぱり鬼道は何かする男だった。


見直した私がバカだった。


いや、バカなのは鬼道だ。


小さく口から出た鬼道の言葉は謝罪だった。


「すまない」


痛い程に抱き締められる。


いや、傷に響いてリアルに痛い。


「いったいって言ってるでしょっ!!」


力任せに鬼道を特技の護身術で突き放した。


が、いつものように力をいれた所為か余計に傷が傷んだ。


「そうやってアンニュイになるのやめてよ」


涙は包帯の上から傷口を押さえた。


まるで痛みを押さえるように。


そんなものはただの気休めであってたいして意味がないことだ。


「...俺はお前を苦しめてるのか?」


何故鬼道がいきなりそんな事を言い出したかは分からなかった。


「なに、急に...」


「俺はお前を苦しめてるのか?」


二度目の言葉。


なんと答えて欲しいかわからない。





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