和5題-2

□枯れ野
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「そう言うな。俺だって、律が何か知ってるとは思ってねぇ。」
桐嶋は「阿呆か」などと言われても、動じない。
阿呆なことをしているという自覚があるからだ。

「聞き込みをしたら、下手人は神社の狐だなんて言う奴が、意外と多いんだ。」
桐嶋はあっさりとそう答えた。
事の発端は、神社の敷地内にある柳の木が枯れかかっていたことだ。
古くからある木であり、寿命なのかもしれない。
だがこのまま枯らしてしまうのは可哀想だ。
いっそ日当たりのよい場所に植え替えたらどうだろうか。
そこで近所に住む者たちが木の根元を掘り、死体を発見したのだった。

死んだ者は若いのか年寄りか、男か女かさえわからない。
なぜならもう白い骨になってしまっていたからだ。
おそらく死んだ原因を突き止めることは不可能だろう。
だがあんな枯れ野のような場所に、ずっと埋められていた仏が不憫だ。
せめて身元を突き止めてやれないものかと、桐嶋は周辺の住民に聞き込んだ。
すると皆口々に、狐の仕業ではないかと言い出したのだ。

まったく阿呆らしい。
白骨になったとすれば、この者が死んだのは何年も前だろう。
その頃、律はまだ幼子のはずで、そんな血生臭いことに関わっているはずがない。
だが変な噂になっているのが、気になった。
だから桐嶋は、こうしてわざわざ律に聞いた。
律を詮議して、何も怪しいことはなかったという形を作りたいのだ。

「それにしても神社に死体を埋めるとは、罰当たりなことだな。」
ようやく桐嶋の阿呆な質問の意味に合点がいった横澤が、ため息をついた。
ほぼ毎日娼館に現れ「嫁に来い」などと戯言を言う桐嶋に、かなり消耗している。
だが徐々にほだされているのも間違いなかった。
こうして嵯峨と律が寄り添っている姿を見ても、もう心が痛まないほどに。

律に形式的に聞いただけで、桐嶋の興味はまた横澤に向いた。
そして横澤はそんな桐嶋の口説き文句を躱すことに忙しい。
だから2人とも気づかなかった。
一言も口を開かなかった嵯峨が、難しい顔をしていたことに。

嵯峨はある1つの可能性を考えていた。
神社で見つかった骨はもしかしたら律の母親、小野寺屋の先妻ではなかろうか?
だとすると、律が神社で暮らしていたことはどう考えればいいのだろう。
その険しい横顔を、律だけが心配そうに見ていた。
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