和5題-2

□枯れ野
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「そっか、千秋ちゃん、決まったの。」
翔太は素っ気なく、そう言った。
冷たいとか、関心がないというわけではない。
動揺しているらしい千秋に、大したことではないのだと思ってもらいたかった。

ついに千秋が客前に出される日が決まった。
千秋がこの娼館に来て、すでに2年余りが経っている。
この間に千秋はいろいろなことを学んだ。
読み書きはもちろん、文学や歴史、算術、それて礼儀作法。
この娼館は、道端で買えるような安い娼婦は置かない。
最低限の教養を持ち、客の話し相手もこなせるようにさせられるのだ。

そして夜の褥のことも学ばされる。
感じる場所を開かされ、快感を覚えさせられるのだ。
それらすべてを羽鳥によって教え込まれた。
そしてついに客を取る日が決まった。

羽鳥に身体を仕込まれ、淫らな行為を教え込まれた。
だが唇を重ねることと、身体を繋げることはされていない。
それは初めての客への売り物として、残されていた。
そして「初物」には、高い値段がつけられる。

翔太にも覚えがある。
最初に客と身体を重ねたとき、心が重かった。
好きでもない相手と金を貰ってする情事に、どうしても抵抗があったのだ。
自分は汚れたのだと、はっきりとそう感じた。
きっと千秋も同じ思いをするのだろう。

「慣れるしかないね。」
翔太は明るくそう告げた。
中途半端に同情する素振りを見せることなど意味がない。
翔太自身が借金に縛られていて、とても他人を助ける余裕などないのだ。

できるのはこうして時折、愚痴を聞いてやること。
すでに売れっ子の男娼である翔太には、客からの手土産が多くある。
菓子があるから食べに来いと声をかけて、部屋に呼ぶのだ。
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