快感3題

□魔法のクスリ
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お前の仕業なんだろう?
柳瀬はするどい眼光で、羽鳥に詰め寄る。
だが羽鳥は涼しい顔で「そうだ」と答えた。

おかしいと気づいたきっかけは、クラブ「エメラルド」にホスト志望として面接に行ったあの日だった。
結局履歴書すら見てもらえず、帰るとき何気なくレジ横に置かれた店のパンフレットを1冊持ち帰った。
いつもは千秋に見送られるから、パンフレットなど手に取ることなどなかったのだ。
そして店の料金体系を見て、あっと思ったのだ。

クラブ「エメラルド」の料金は、決して安くはないが良心的だ。
テーブルチャージと言われる場所代や、税金やサービス料などのTAX、飲食代を明示している。
だから客には何がいくらか内訳がわかるので、会計の時になって値段に驚くようなことはない。
つまりいわゆるぼったくりなどは一切ないのだ。

柳瀬が不審に思ったのは「初回料金」と書かれた値段だ。
大概の店ではあるもので、初めて来店する客のためにかなり割安に設定されている。
これを利用できるのはその名の通り、最初に入店した1回限りだ。
柳瀬も初めてクラブ「エメラルド」に来店した時、千秋に「初回料金にしとくね」と言われた。
だが2回目以降も店から請求される金額はほとんど変わらなかった。
変わらなかったから疑問に思わなかったのだ。
だが正規の料金を請求されたなら、2回目以降の料金はぐんと上がっていたはずだ。
つまり誰かが柳瀬が来店した際の料金を負担していると考えるのが妥当だろう。

最初は千秋が負担してくれたのかと考えた。
だがすぐに違うだろうと思い直した。
千秋はよくも悪くもこっそりと何かをすることはない。
そう考えると、こんなことをする犯人は1人しかいない。

問い詰めなければ、気がすまない。
だから柳瀬は早朝、閉店後のクラブ「エメラルド」に押しかけた。
他のホストたちはすでに気を利かせて帰宅しており、店長さえ戸締り用の合鍵を置いて出て行った。

お前の仕業なんだろう?
柳瀬が最後に残った羽鳥を睨みつけると、羽鳥は涼しい顔で「そうだ」と答えた。
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