手の5題3

□ピース!
1ページ/4ページ

ピース!
掛け声と共に、秋彦は両手でピースサインを作る。
だが表情は完全にシラけており、笑顔とは程遠かった。

数時間前、美咲は丸川書店でバイト中に上司である社員に呼ばれ、こう言われた。
今日はこちらの仕事はもういいから、井坂専務の仕事を手伝って欲しいと。
その名から、正直言っていいイメージはできない。
美咲を「チビちゃん」と呼び、一人前扱いしてくれない井坂が苦手というだけではない。
井坂が美咲にさせる仕事なら、秋彦がらみとしか考えられないのだ。
ことわれるものならことわりたいが、仕事と言われればそうもいかない。
美咲は諦めて、指定された場所−渡されたメモによるとスタジオ−へ向かった。

そこは写真の撮影スタジオだった。
淡いトーンのスクリーンは背景用だろう。
カメラマンらしい男性が三脚に固定した大きなカメラを操作している。
そして部屋の隅で井坂と秋彦、そして秋彦の担当編集の相川が待っていた。

早速だけどチビちゃん!秋彦を笑わせてくれ!
井坂は美咲を見つけると、唐突にそう言った。
意味がわからない。
見かねた相川が取り成すように、事情を説明してくれた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ