SMILE5

□微笑
1ページ/5ページ

よく見慣れた微笑が、まるで違う人に見える。
それが最初に感じた違和感だった。

「あ、律っちゃん。お疲れ〜!」
「木佐さん。打ち合わせ、お疲れ様です。」
午後の昼下がり、木佐翔太は小野寺律とともに丸川書店の正面玄関にいた。
担当作家との打ち合わせから戻った木佐と、仕事が立て込んで遅い昼食から戻った律。
2人はちょうど入口で顔を合わせ、一緒に編集部へ戻ろうとしていたのだ。

この時間の正面玄関は、いつも閑散としている。
昼休みに食事に出た社員たちは、もう仕事に戻っている。
また午後一番の来客の波も引いており、受付嬢ものんびりしている時間帯だ。

だが今日は違った。
受付には大柄な男性が1人、受付嬢に何か早口でまくし立てている。
その男性は外国人−欧米を思わせる白人だった。
どうやら日本語は話せないらしい。
顔なじみの受付嬢は困った表情だ。
助けてあげたい気持ちはあるが、無理そうだ。
木佐は受付嬢に目で詫びて、そのままそこを通り過ぎようとした、

「え、ちょっと?律っちゃん!」
だが律は木佐から離れ、つかつかと受付に歩いていく。
そして外国人の来客に、流暢な言葉で話しかけた。

木佐は知らない言葉で話す律を、呆然と見ていた。
こころなしかいつもより大きな声と、大きめな手の動き。
よく見慣れた律の微笑が、まるで違う人に見える。
それが小さな違和感となって、木佐の心に残った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ