SMILE5

□含み笑い
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照れ笑いではなく、含み笑いだ。
その笑みが無性に悔しいと思った。

「俺はこれが大賞候補だと思う。対抗はこれと、あとこれ」
「俺も大賞候補は同じだなぁ。」
木佐と美濃が喋っている。
羽鳥も手元の書類に目を落としながら「うーん」と唸った。

エメラルド編集部の面々は、全員会議室にいた。
月刊エメラルドでは、年に何回か読者から投稿作品を募集している。
いわゆるコンクールという形式だ。
大賞はプロとしてのデビューが約束されている。
その下にも優秀賞や佳作などいくつかの賞が設けられていて、商品が授与される。
そして受賞作にはプロとして活躍する作家からの批評も寄せられる。
プロを目指す者たちからすると、プロ目線の批評は実力アップに大いに役立つだろう。

だが応募されてくる作品は、まさにピンからキリまで。
ほとんどプロの作品と遜色ない作品もあるが、多くはいわゆる素人作品だ。
締め切りに追われ、多忙な作家たちに全作品を読ませるわけにはいかない。
羽鳥の担当作家、吉川千春は全部読みたいと言ったが、羽鳥が断固として止めた。
ただでさえ筆が遅いのに、身の程知らずにも程がある。
とにかくある程度のレベル以上の作品を選ばなくてはならない。

そこでエメラルド編集部の面々がこうして集まっているのだった。
明らかに読むレベルではない作品は落として、賞候補作品を絞るのだ。
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