SMILE5-2

□照れ笑い
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「何でダメなんだよ!」
青年はそう叫んで、律のジャケットの襟を掴んだ。
詰め寄られて、まるでキスでもしてしまうほど近づく顔。
至近距離で見ると、彼の怒りがひしひしと伝わってくる。
だが律は何も言うことができなかった。

律は会議で遅い高野を待っていた。
最近何となくギクシャクしている高野と、話をしたかったのだ。
いや別に話なんかしなくてもいい。
顔を見て、一緒に帰れればそれだけでよかった。
だが会議は長いようで、高野はなかなか戻ってこない。
会議中だから、電話やメールもためらわれた。
律はあきらめて、先に会社を出たのだ。
会社を出たところで、青年が待ち構えていたのだった。

「こんばんは」
丸川書店の正面玄関を睨みつけていた青年が、律の姿を見つけて声をかけてきた。
一見するとただの挨拶だが、その口調がひどくとげとげしい。
かつて律を目の敵にしていた頃の横澤が、こんな口調ではなかっただろうか。
つまり青年は律が出てくるのを待っていたのだ。
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