BREATHE

□青い春が過ぎていく
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「先輩が、すきです」


すきだといった。先輩はただ笑った。――たったそれだけ?心の底に湧いた感情を握りつぶす。言葉を待てど先輩はいっこうに口を開こうとしない。長い沈黙の間、開いた教室の窓から吹き込む風が先輩の髪を揺らして、酷くきれいだと思った。そして先輩は言うのだ。


「……ばいばい、圭介」




目が醒める。握りしめた手のひらには汗が滲んでいた。随分現実味を帯びた夢は、昨日の光景とリンクする。とは言っても、昨日の放課後、先輩の暇潰しに付き合った結果得られたのは、先輩の卒業が間近に迫っていること、おれは後輩としてしかみられていないことの実感だけだったわけで。まだ夢の中のおれの方が、先輩に気持ちを伝えている分勝っているのか。

(……情けねえ)


現実では踏み出せない自分も、振られるという負の妄想ばかりの自分も。情けないけどでも、簡単に手を打って先輩を失うのが一番怖いから。女々しくてもよかった、嫌われないなら。失わないなら――。

重たい思考を振り払うように、毛布を乱暴に捲りあげた。3月を目前にした朝はまだすこし肌寒い。身震いする身体を起こして、足を床につける。いつもなら期待に満ち溢れた朝だ。学校に行けば先輩に会えて、言葉を交わせるのだから(つまりはおれの生活は先輩中心であるということ)。なのに、だ。朝からこんなもん見せられちゃあ、気が重くなるというもので。寝ぐせのついただらしない髪の毛を掻きむしって、欠伸をひとつ。そうしたらいつもと大差ない朝のような気がしてきた。学校に行けば、先輩に会えるいつもの朝だ。

 
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