紫
□忘れられない言葉
1ページ/18ページ
忘れられない言葉
今、吏部には物凄い勢いで書類の処理をする絳攸がいた。
王の教育係となってからは日に二度くらい顔を出すだけになっていたが、今日は朝からずっと自分の机案で書類に囲まれている。
「絳攸…」
上の方から黎深の声が降ってくる。
「…はい?」
かなり集中していたため、内心では黎深の存在に驚いていた。
「今日は王のところへは行かないのか…?」
「あ……はい、主上には先程指示を出してきましたので…」
「…そうか。今から私は戸部へ行ってくる」
手に持っていた扇子を閉じ、黎深は室を後にした。
「分かりました」
絳攸の声が聞こえたのは扉を閉めてからすぐ。今日の絳攸は変に落ち着いていて、さすがの黎深も心配をしていた。
しばらく一人黙々と仕事に取り組む。
それは絳攸が真面目であるということであるが、今現在は違った。
ぼーっとしていると思い出したくもないことを思いだし、考え込んでしまうからだ。昨夜の嫌な出来事を…。
ふとした瞬間でも。
・