□伝えたい言葉
1ページ/17ページ






 邸への帰り道、楸瑛の足の動きは遅い。頭上に広がる夜空を眺めながら、歩いているからだろう。

 輝く星を見ては思う。


(何故、私は焦ってしまったのか…)


 言ってしまったのだから仕方ないが、やはり後悔をしているのだ。

 あのような形で、絳攸に想いを告げてしまったことを…。

 狡いと言われてしまうだろうが、もっと彼を自分に執着させてから告白をするべきだった。

「私も……バカな男…だったんだな…」

 酒から甘い香りがした所為か、絳攸の白い頬が赤く染まり艶めいて見えた所為か。

 いくら考えても明らかな原因は見つからない。

 ただあの瞬間、想いが溢れ出たのだけは確かだった。


(絳攸…)


 考えながら歩き続け、もう邸の近く。

 目の前の通りを真っ直ぐ進み、突き当たりを曲がれば邸が見える位置だった。

「…絳攸」

 無意識に名を呟いていた。

「何だ?」

「………絳…攸……絳攸!?」

「何度呼ぶんだ!」

 一瞬幻かと思ったが、そうではない。今、目の前に会いたかった人がいるのだ。

「何で、ここに?」

「お前に会いに来た」

 理由はわからなかったが、嬉しかった。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ