紫
□伝えたい言葉
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邸への帰り道、楸瑛の足の動きは遅い。頭上に広がる夜空を眺めながら、歩いているからだろう。
輝く星を見ては思う。
(何故、私は焦ってしまったのか…)
言ってしまったのだから仕方ないが、やはり後悔をしているのだ。
あのような形で、絳攸に想いを告げてしまったことを…。
狡いと言われてしまうだろうが、もっと彼を自分に執着させてから告白をするべきだった。
「私も……バカな男…だったんだな…」
酒から甘い香りがした所為か、絳攸の白い頬が赤く染まり艶めいて見えた所為か。
いくら考えても明らかな原因は見つからない。
ただあの瞬間、想いが溢れ出たのだけは確かだった。
(絳攸…)
考えながら歩き続け、もう邸の近く。
目の前の通りを真っ直ぐ進み、突き当たりを曲がれば邸が見える位置だった。
「…絳攸」
無意識に名を呟いていた。
「何だ?」
「………絳…攸……絳攸!?」
「何度呼ぶんだ!」
一瞬幻かと思ったが、そうではない。今、目の前に会いたかった人がいるのだ。
「何で、ここに?」
「お前に会いに来た」
理由はわからなかったが、嬉しかった。
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