Infinite Stratos:Re
□第四夜
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◇
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んで見ろ」
四月の下旬。
実技の授業なので、流石の俺も真面目に受けている。
一夏とオルコットは、すぐに専用機を展開させる。
織斑先生は端から見ていても命令する姿が実に堂に入っている。根っこから上に立つ人間なんだろう。
「よし、では飛べ」
飛び上がる青と白。上を見上げる俺とその他生徒。
一夏は白い機体カラーが特徴的な『白式』、オルコットは青い機体カラーの『ブルー・ティアーズ』。
「織斑、オルコット、急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」
「了解です。では一夏さん、お先に」
オルコットが一気に急下降して、織斑先生の言った目標の位置辺りで停止する。
「どうですか、涼夜さん! わたくしの操縦は!」
遠くからぶんぶんと手を振って訊いてくるオルコット。
つか何故俺に訊く。
「あ? あァ。良いんじゃないか……?」
「ふふふ♪ ありがとうございますですわ♪」
俺は小さな声で言ったが、どうやら聞こえたらしい。
ISに声を拾う機能も付いているのだろうか。
ギュンッ! そんな音が訊こえた俺は、近くの女子の手を掴み三歩程下がる。
直後──。
ズドォォォンッ!! 普通なら聞くことのない轟音。
ちょうど俺達がいた近くに、急下降をした一夏が完全停止出来ずに地面に激突した。
クレーターみたいになってんぞ。
隕石かよ……。
一夏に怪我はないだろうが、クラスの女子からくすくすと笑われ、かなり惨めに思える。
「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「……すみません」
姿勢を直し上昇する一夏。
無傷であることから、ISはかなり丈夫であることが判る。
「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう」
あの『ギュンッ! と逝って、ぐっと止まる』で教えたと言えるかどうか。
つか、逝っては駄目だろ。
「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在に出来るようになっただろう」
「は、はあ」
「返事は“はい”だ」
「は、はいっ」
「よし。では始めろ」
一夏が怯えているのがよく判る。
あれが愛の鞭というやつなのだろうか。
不意にくいっ、と右腕の袖が引かれる。
「あん?」
そこにいたのは先程、隕石という名の一夏から助けた、袖丈が異常に長い制服の女子生徒。
「さっきはありがと〜、あおみん」
あおみん!?
「あーと、えー……?」
彼女が誰だか判らないのも含め、自分がよく判らない呼び方をされてしまい軽く混乱する俺。
「あ〜、クラスメイトの名前憶えてないなんて酷いんだ〜。私、布仏本音だよ〜?」
冷静に考えると、最初の自己紹介を訊いていなかったので、クラスメイトの顔と名前が一致しない。
「すまない……流石に失礼だった」
「んー、私の名前覚えてくれた〜?」
「あァ、布仏本音……改めてよろしく」
「よろしく〜」
なんだ、この遅さは!
なんか見てると眠くなる遅さだ。
「……おィ」
「んー?」
何でだ。
何でこいつは……。
「何で……俺の腕に引っ付く」
他の女子が何も言わない理由?
んなの皆が皆、一夏達を見てるからだ。
「あおみんって〜」
返答でさえもこの遅さ。
それでも苛つきを感じさせないのは、ある種の才能だろうか。
「なんだか安心するね〜」
……何だよ、それ。
「……あんま女の子が男に引っ付くな」
俺は出来るだけ優しく布仏を引き剥がし、その場から離れる。
俺が安心するね……。
それは──。
「……錯覚だろ」
◇