Infinite Stratos:Re
□第十夜
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◇
ずいぶん強くなったな……。
身体だけじゃなく心も。
ん?
なんで俺がって?
約束があるんだ。
だからリョウヤ──。
◇
「……んァ?」
何か今誰かに話しかけられてたような……。
臨海学校初日。
俺、碧海涼夜はよく判らない感覚の中目を覚ました。
「あ〜、おはよ〜。あおみ〜ん」
「……おゥ」
場所はバス。
一夏が絶賛熱唱中なのでカラオケタイムに突入していた。
通路側の席に肘を立てて寝ていた俺に声をかけたのは、隣の席に座る布仏本音だ。
何故となりが布仏本音なのか。
理由は至って単純。
決まらなかったからだ。
俺と一夏の隣に誰が座るか。
他のクラスなら簡単に決まる内容も、男子がいるというだけでHRの半分以上を費やす結果になった。
果たしてそれを織斑千冬が見逃すだろうか?
否だ。
途中まで大人しくしていた千冬だが、最終的に『くじびきなりなんなりしろ!』と怒声は発したわけだ。
「はい、あーん」
「ん、さんきゅ」
座席に深く座り直しぼーっとしていると、布仏がポッ○ーを差し出して来たので、特に何も考えずに口で加える。
ピシッ、と周囲の空気が下がった気がした。
「涼夜……何をしてるのかな?」
「詳しく説明してもらえますか……?」
通路を挟んで隣のシャル。
その後ろのセシリアがこちらを見て笑っている。目は笑っていないが。
「…………」
威圧感たっぷりの二人の視線を受けながらも、俺はどこか呆けている。
「涼夜?」
「涼夜さん?」
「…………あ、なんだ?」
「あおみんが何をしてるのかーって」
未だにボケッとしている俺に布仏が説明した。
「あー……なんか変な夢を見た気がしてな」
最早質問の答えではなかった。
それ程、俺にとっては不可解な事象だったのだ。
誰かに話しかけられていた気はする。
何か重要な話をするところだった気がする。
でもそれが何だったのかが判らない。
けど夢なんてそんなもの……だよな?
「意識覚醒してきた……」
(無意識だったんだね……)
(無意識ですわね……)
シャルとセシリアは未だによくわからない俺を見、小さく溜め息をついた。
ん、と座ったまま体を伸ばしてみると、骨が小さく鳴る。
「じゃあ目覚めに一曲!」
俺の前の席の一夏が乗り出してマイクを向けてくる。
なんで周りが知り合いだらけなのか?
それは決めたのが涼夜と一夏の隣だけだからだ。
「……却下で」
「「「ええーーー!!」」」
……。
マイク、オンのまんまかよ。
クラスメイト全員と言っても過言ではないほどのブーイング。
「あおみんが歌うの聞きたいな〜」
「いや、起きたばっかだし」
「涼夜がこの間買ってたCDってこれだよね」
シャルがリモコンを操作し、画面を見せてくる。それは先日、水着を買った日に買ったCDの曲だ。
流石はIS学園のバス。
備え付けのカラオケセットですら、本格的だ。
「よし! みんな涼夜兄が歌うぞ!」
ワアッ! と盛り上がりを見せるクラスメイト一同。
嘘だろ、おィ。
「ほ、箒」
「……別に一曲くらいいいだろう?」
(正直、聞いてみたい気もするし……)
一夏の隣……通路を挟んでの箒に助けを求めてみるが失敗。
布仏とシャルも駄目。
「セシ──」
「期待していますわ! 涼夜さん!」
無理。
なんでそんな期待に満ちたキラキラした目で見るんだよ!
「ら、ラウラ」
「…………」
シカトされた……。
シャルの隣に座るラウラだが、どうも昨日からこんな調子だ。
「ほら、早く!」
一夏がマイクを押し付けてくる。
あァ、もう!
「ほら、ラウラ。涼夜が歌うよ」
「あ、ああ。そうか」
シャルの言葉に漸く反応したラウラに疑問を持ちながら俺も覚悟を決める。
「Step into fascination.Trap of infatuation kiss...」
シャルに入力された、買ったばかりのCDの曲を、音楽に合わせて口ずさんでいく。
◇