Infinite Stratos:Re

□第十二夜
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 それは一夏がまだ小学二年だった頃のことだ。
 千冬に付き合わされる形ではじめた剣道も一年が経ち、それなりに様になっていた。



(ったくよー。あいつはー……)


 道場の娘で同い年の女子とは、どうにも馬が合わない。
 今朝も朝練で衝突して試合に発展、胴薙ぎ一本で負けた日だった。


(あーくそー。勝てねえかなぁ……勝ちてえなぁ……)



 そんなことを考えながら、一夏はぶすっとした顔で教室の掃除をしていた。
 自分以外のクラスメイトはサボって遊びに行っているのを知ってはいたが、別にどうとも思わない。


「おーい、男女〜。今日は木刀持ってないのかよ〜」



「……竹刀だ」



「へっへ、お前みたいな男女には武器がお似合いだよな〜」



「……」



 女子は答えない。
 三人の男子が取り囲んで一人の女子をからかっている。
 そんな状況の中で、けれど少女は凛とした眼差しで相手を睨み、一歩も引こうとはしない。 ──その女子の名前は、箒といった。



「やーいやーい、男女〜」



「……うっせーなぁ。てめーら暇なら帰れよ。それか手伝えよ。ああ?」


 いい加減、無意味な攻撃に苛立ちを覚えていた一夏は、クラスの男子に向かってそう言い放つ。



「なんだよ織斑、お前こいつの味方かよ」



「へっへっ、この男女が好きなのか?」



 古今東西、子供のからかいというのは度し難い。
 そしてそれは、たとえ同い年であろうとも一夏には不快きわまりなかった。



「邪魔なんだよ、掃除の邪魔。どっか行けよ。うぜえ」



「へっ。まじめに掃除なんかしてよー、バッカじゃねーの──おわっ!?」



 いきなり、箒が男子の胸ぐらを掴んだ。
 何を言われても手を出さなかった箒が、その言葉にだけは反応した。



「まじめにすることの何がバカだ? お前らのような輩よりははるかにマシだ」



「な、なんだよ……何ムキになってんだよ。離せっ、離せよっ」



 強靱な腕で締め上げられてもがく男子とは別に、残りのふたりはまだニヤニヤと笑いを浮かべている。



「あー、やっぱりそうなんだぜー。こいつら、夫婦なんだよ。知ってるんだぜ、俺。お前ら朝からイチャイチャしてるんだろ」



(うわ、出た。夫婦夫婦ってこいつらそういうの好きだなー。飽きたっつうの)



 箒の道場に通うようになってから、そう言われたのは別に一度や二度ではない。
 そもそも両親がいない──つまり夫婦の概念が希薄な一夏にとっては痛くもかゆくもない。



「だよなー。この間なんか、こいつリボンしてたもんな! 男女のくせによー。笑っちま──ぶごっ!?」



 今度は、一夏が怒りをあらわにした。
 それだけでは済まず、顔面に拳を叩き込む。
 ぽかんとしている男子をよそに、一夏は倒れた相手を片腕で立たせて締め上げた。



「笑う? 何がおもしろかったって? あいつがリボンしてたらおかしいかよ。すげえ似合ってただろうが。ああ? なんとか言えよボケナス」



「お、お前っ──!! 先生に言うからな!」



「勝手に言えよクソ野郎。その前にお前らは全員ぶん殴る」



 それは三人相手に大立ち回りした一夏が、騒ぎを聞きつけてやってきた教師に取り押さえられて終わった。
 その一部始終を当時小学四年生だった碧海涼夜は廊下から眺めていた。







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