Infinite Stratos:Re

□第三夜
6ページ/8ページ








「よくもまあ、持ち上げてくれたものだ。それでこの結果か、大馬鹿者」



 試合が終わり、千冬さんに怒られている一夏。
 敗因は、武器の特性を考えずに使ってしまったからだそうだ。



「何にしても今日はこれでおしまいだ。帰って休め」



 織斑先生の言葉に一瞬、体が固まる。



「予想以上に長引いてしまったからな。それにオルコットが織斑に勝ち、碧海がオルコットに勝った。ならば最後の試合は必用あるまい」



「……正論ですね」



 一夏と戦うのを楽しみにしていた俺としては、なんだか残念だ。
 その後、アリーナを後にした俺、一夏、箒は、箒を真ん中にして歩く。



「……」



「な、なんだよ?」



「負け犬」



 ま、否定すんのは難しいな。
 ちなみに俺は、既に変装バージョンだ。


「任せんなよ!」



「あん?」「なに?」



「何でもない……」



 そんな中、一夏が急に意味不明な叫びをするので俺も反応しちまった。



「……涼夜は勝ったというのに」



「涼夜兄は別格な気が……」



「わざと時間かけてくれたのにか」



「うっ」



 言葉に詰まる一夏。
 箒が、俺がわざと時間かけてたのを知ってる理由?
 織斑先生がバラしたんだよ。
 おかげで山田先生にやたらキラキラした目で見られた。



「まァ、負けたコトがあるって経験も重要なんだ。それくらいにしてやれよ、箒」



「む……仕方ないな」



 一夏に目でお礼をされたので、こちらも、気にするなと目で語る。


「それにしても……涼夜兄凄かったな」



「ああ。裂空刃、といったか?」


「あー…そうだな。“裂空刃”。本来なら抜刀して納刀に繋ぐことも可能な剣技だ」



 へー、と言う一夏に対して箒はまだ何か訊きたそうにしている。



「どうした?」



「いったいどれだけ斬りつければシールドエネルギーが零になるのだ」



 気が付きやがった。
 箒の思った通り、いくら連撃とは言え、そう簡単にシールドエネルギーが尽きる筈がないのだ。



「……企業秘密だ」



「教えてくれないのか?」



 一夏まで興味を持ちやがった。
 当然と言えば当然なんだが。
 じ、と見てくる箒と一夏。
 二人は剣を扱う者の純粋な興味で訊いて来ているために、断りづらい。



「……これは内緒の話なんだが」


「お、教えてくれるのか!」



「さっすが、涼夜兄!」



 本当に嬉しそうだな。



「裂空刃ってのは、真空波を伴う広範囲の多段居合い斬りなんだよ」



 織斑先生は気が付いてたみたいだけどな。



「「は?」」



 フリーズする二人。



「要するに俺がオルコットを斬った時、ブレードとは別に真空波にも斬りつけられたんだ。結果として大量のシールドエネルギーを消費したわけ」



 尤も、裂空刃以前に最初の三発の拳、次いでブレードによる突きの威力も高かったが。



「そ、そんなことが可能なのか!?」



「涼夜兄、いったいどんな魔法を使ったのさ」



「努力」



 我ながら見も蓋もないな、と思いながら二文字で返事をする。
 実際うそは言っていない。
努力し、能力をつけるしかなかったのだ。
 それにさっきの試合で使った裂空刃は不完全なものだ。
 あれは風の属性を魔力付加〈エンチャント〉した武器でこそ、力を発揮する業(わざ)なのだ。



「──っと、俺は此方だから」



「え、ああ。それじゃあ、気を付けて涼夜兄」



「う、うむ。ではな」



 二人共納得出来て無さそうだな。
 当たり前か。
 非日常を垣間見たんだから。



「じゃあ、また明日」



 俺は、フッと笑い、二人とは別方向に歩みを進め始めた。












「……」


 ぽつんと、一人で控え室に座るセシリア。



(あれは勝ったと言えるのでしょうか?)



 今日の一夏との試合を振り返る。


(それに……)



 涼夜との試合。
 圧倒的なまでに力の差を見せつけられた。
 服を脱ぎ、シャワー室をへと足を踏み入れる。



(今日の試合……突然彼のエネルギーが零になった……)



 試合での出来事を考え当たりはしなかったが、最後の一撃が通っていた時の事を考えて……。



(もし……もし最後の一撃が私に当たっていたら……──)



「ふぅ……」



(碧海涼夜と織斑一夏……誰にも媚びることないまっすぐな強い眼差し…あんな男性は初めて見ましたわ)



 そんな事を考えながらセシリアは自身の父の事を思い出していた。
 セシリアの母は現在の女尊男卑の風潮が起こる前からいくつもの会社を経営して成功を収めていた……そしてそんな母は当然、セシリアの憧れでもあった。
 しかし、父親は違った。
 セシリアの父親は名家に婿入りしたせいか常に母の機嫌とりにしていて……。



「はぁ……」



 そして女尊男卑……つまりISが発表されてからは父親はその態度が以前よりも小さくなっていた。
 そしてセシリアの母もそんな父親の事を"鬱陶しい"と思っていたのだが。



「もう三年も経つんですのね」



 三年前に起こった越境鉄道の横転事故で二人は一緒に死んだ。
 その事故は死者数が三桁を超える大規模な事故で、残されたセシリアには母親が残した莫大な遺産と、その遺産目当てに集まって来た金の亡者達だった。
 しかし、セシリアは自身の両親が残してくれた物を守るために必死に勉強したのだった。
 そして、第三世代装備ブルーティアーズのマスターとして稼働データと戦闘経験値を得る為に日本へとやって来た。
 そして出会ってしまった……。



「やっと見つけました。理想の強い瞳をした男性に……碧海涼夜……」



 深海の様な青き瞳には確かな焔があった。
 さらに圧倒的な実力。
 的確な判断力。
 鮮やかな剣技。
 セシリアは、涼夜がどのような人物なのか知りたいと思っていた。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ