Infinite Stratos:Re

□第七夜
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「…………」



「…………」



「…………」



 なんだこれ!?
 シャルルがシャワーから上がり、どれくらい経っただろうか。
 一夏がテーブルを使いシャルルと向き合うように座っている。
 俺は今お茶を用意してるんだが……気まずっ。
 ことり、と三人分のお茶をテーブルに起き、一夏の隣に座る。



「「あ、ありがとう……」」



「おゥ……少しは落ち着いたか?」



「う、うん」



 現在のシャルルの格好はシャープなスポーツジャージだ。ただバレてしまったからか、胸を隠すためのコルセットをしていない。
 要は胸がある。



「なんで……男のフリなんかしていたんだ?」



 お茶を一度に飲んで喉を潤した一夏が本題に入る。



「それは、その……実家にそうしろって言われて……」



「実家って……デュノア社の?」



「そう。僕の父がそこの社長。その人からの直接の命令なんだよ」



 シャルルの顔は顕著に曇り始めていた。



「命令って……親だろう? なんでそんな──」



「僕はね、愛人の子なんだよ」



 シャルルの言葉に絶句する一夏。
 俺はある程度の予想はついていたのだ、黙って話を訊き続ける。



「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。その時に非公式ではあるけどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」



 シャルルは言いたくないであろうことを健気に話してくれた。
 だから俺は何も言わない。
 恐らく一夏も同じであろう。



「父にあったのは二回くらい。会話は数回くらいかな。普段は別邸で生活をしているんだけど、一度だけ本邸に呼ばれてね。あのときはひどかったなぁ。本妻の人に殴られたよ。『この泥棒猫の娘が!』ってね。参るよね。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね」



 愛想笑いを繋げるシャルルだが、その声は乾き、少しも笑えていなかった。
 一夏が拳を握りしめたのが視界に入る。



「それから少ししてから、デュノア社は経営危機に陥ったの」



「あァ……だからか」



「涼夜兄?」



「注目を浴びる為の男装ってことだ」



「うん。やっぱり頭もいいんだね」



 そんなんじゃない。



「それに……同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータを取れるだろう……ってね」



「……白式か」



「うん。白式のデータを盗んで来いって言われてる」



 やはり。
 シャルルはその父親に利用されているのだろう。
 偶然IS適応があった、ならば使おう。その程度の認識だろう。
 シャルルは賢い。
 恐らく判った上で父親に従ったのだろう。



「……そんなところかな。でも二人にはバレちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるだろうね。デュノア社は……まあ、潰れるか他企業の傘下に入るか、どのみち今までのようにはいかないだろうけど、僕にはどうでもいいことかな。……ああ、なんだか話したら楽になったよ。訊いてくれてありがとう。それと今までウソをついててゴメン」



 深々と頭を下げるシャルル。
 ちらりと一夏を見ると、一目で怒っているのが判る。



「なんだよ! それ!! 親がいなけりゃ子は生まれない。そんなの分かる。けど、だからって、親が子供に何をしていいなんて、そんな馬鹿なことあるか!!」



「黙れ、一夏」



「けどッ!?」



「お前の言いたいことは判る。だが、一番辛いのは当のシャルルだ。お前が沸騰してどうする」



「ッ!!」



 俺の言葉に一夏は、ごめん、と呟き俯く。



「そんなに落ち込むな。お前のソレは美点だ」



 一夏にそう言うと、俺はシャルルを見る。



「シャルル……お前はどうするんだ?」



「どうって……時間の問題じゃないかな。フランス政府もことの真実をしったら黙ってないだろうし、僕は代表候補生をおろされて、よくて牢屋じゃないかな?」



「……お前はそこで歩みを止める気か?」



「……僕には選ぶ権利がないから、仕方ないよ」



 そういって見せたシャルルの微笑みはひどく痛々しい。
 その絶望を知っています。
 だからもう進めません。
 そういうのは腹がたつ。
 そしてそんな表情をさせるシャルルの父親が──。



「……一夏、特記事項第二十一、覚えてるか?」



「え? ……あ、そうか!」



 納得する一夏によく判らない顔をするシャルル。



「……この学園にいる限り生徒はありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がなければ、外的介入は原則として許可されない──だから、ここにいろ」



「…………涼夜、やっぱり頭いいね」



「……一夏も覚えてたろ? 普通なんだよ」



「勤勉なんだよ、俺」



「そんなんだ。ふふっ」



 漸くシャルルが笑ったか。
 屈託ない十五の少女の笑み。



「まァ、俺も強く言ったが、決めるのはシャルルだ」



「うん」



 もう少し後押ししたら? と一夏が言ってくるが、俺はしない。
 今も言ったが決めるのはシャルルなのだ。俺じゃない。
 それでも強要したい、と思う俺はきっとエゴイストなのだろう。……今さらか。
 大人になるにつれて……自分の思いを口にするのが難しくなった……。








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