Infinite Stratos:Re
□第七夜
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◇
一夏が部屋に戻り数十分、部屋がノックされる。
「涼夜さん、いらっしゃいます? 夕食がまだのようですが、体の具合でも悪いのですか?」
セシリアだ。
「あァ、いや、俺は平気なんだが、シャルルが風邪っぽくてな」
「わっ!」
俺が応えると同時にシャルルに掛け布団をかける。
何故ならば今のシャルルは女の子だからだ。
案の定、セシリアは無断で扉を開けやがった。
なんでどいつもこいつも……。
「具合が悪いらしいから布団をかけてたんだがな、調子が悪いから寝るそうだ」
「あら、そうですの。大丈夫ですか?」
「う、うん」
布団を被りながら小さく返事をするシャルル。
「お大事になさってくださいね? ……それで涼夜さん、夕食をご一緒しませんか?」
「あー、そうだな。……シャルル、少し待っていてくれ」
「うん」
相変わらず布団を被りながらの返答。当たり前だが。
「……行くか」
「はい!」
セシリアの嬉しそうな声を訊きながら、後でシャルルにも食事を用意しなくちゃな、と考えていた。
……。
「ただいま」
「あ、おかえり」
「焼き魚定食を持ってきたぞ」
食事を終えた俺は焼き魚定食を片手に部屋に戻ってきた。
勿論、食べるのは俺じゃない。
「食うだろ?」
「うん、ありがとう。いただくよ」
にっこりと笑ってトレイを受けとるシャルルだが、それをテーブルにおいて表情が固まった。
「どうした?」
「え、えーと……」
「……温かいうちに食べた方がいい」
「う、うん。いただきます」
ぎこちない笑みを浮かべるシャルル。
「あっ……」
ぽろっ、と。
「あっ、あっ……」
ぽろっぽろっ、とおかずをつまみ、落とすシャルル。
魚の身はほぐせるが、うまくつまめないらしい。
……なんだこの可愛い生き物は。
「すまない、配慮が足りなかったな」
「あ、ううん、涼夜のせいじゃ……あっ」
また魚の身を落とす。
このままじゃ食事が進まないな。
食べたいの食べれない。しかも食事は目の前。……辛いな。
「……スプーンかなんか貰ってくる」
「ええっ? い、いいよ、そんな。なんとかこれで食べてみるから」
「……難儀だろ」
「で、でも」
「シャルル、お前はあれだ。もう少し他人に頼れ。甘えろ。遠慮するのは美点かもしれないが、人の好意を無にするのは良くないぞ」
「うう……」
偉そうに言ったが、俺も人のこと言えないのは秘密だ。
「俺はシャルルの味方のつもりだぞ?」
「!?」
「俺の力はたかが知れてるが……それでも出来ることはある」
「涼夜……」
暫く迷っていたようだが、やはり食事が進まないことに気をもんだのか、観念したように口を開く。
「じゃ、じゃあ、あの……」
「おゥ」
スプーンは任せ――。
「え、えっと、ね。その……涼夜が食べさせて」
モジモジとして言いにくそうにしている、と思っていたら、予想外の言葉が出てきた。
流石に惚けてしまう。
そこにシャルルが顎を引いた上目遣いで言葉を重ねてきた。
「あ、甘えていいって言ったから……」
「……あァ、言ったな」
遠慮の塊に辞退を魔力付加〈エンチャント〉したようなシャルルのお願いなわけだが……。
「……やっぱりダメ、かな?」
「……問題ない。俺に任せろ」
上目遣いだけならまだしも……涙目は狡い。
「……あーん」
シャルルから箸を受け取り、魚(さわら)の身をつまむ。
「あ、あーん」
モグモグと咀嚼をするシャルルの頬は心なしか僅かに赤い。
「どうだ?」
「う、うん。おいしいね」
「……それは良かった」
「じゃ、じゃあ、その、次はご飯がいいな……」
「了解」
そしてまた女子の一口分ほどをつまむと、受け皿の手を添えてシャルルの口に運ぶ。
「……あーん」
「ん……」
ぱくっと料理を食べるシャルル。
これが親鳥の気持ちかァ……。
「つ、次は和え物がいいな」
「あいよ」
こうして最後まで俺が食べさせたのだが、だんだんとお互いに言葉が少なくなり、食事が終わるとすぐにベッドと布団に入った。
あー……なんか疲れた。色々と。
睡眠不足が祟ったのか、俺はすぐに眠りに落ちた。
◇